純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 21/1000 森鴎外『舞姫』 鴎外の青春と苦悩、そして罪の意識

どうも、こんにちは。

今回は明治を代表する文豪 森鴎外の『舞姫』。ちなみに僕は井上靖氏の現代語訳版を読んだよ。現代では鴎外のクズっぷりを評されることも多いけど、一方で人間の相反する感情が描かれた優秀な作品だよね。

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 1.読後感
元々、現実の結末を知っていたこともあって、その手前で終わるこの小説にアッと驚かされた。ただ、内容としては主人公豊太郎の葛藤や優柔不断な部分が中心で描写も淡々としている為、さらりと読めた(現代語訳版)。

2.ザックリあらすじ

(1)留学の経緯

豊太郎が日本に帰国する手記に回想として収めたものとして物語は始まる。彼は国費で留学することになったエリートであり、明治維新以後、急速に近代化を進めた日本の急務として法制度の進んだドイツに向かった。彼はそこで立身出世の為、家の為、他の留学生のように遊びにかまけず、身を粉にして学び働いていたが、ドイツの大学の自由な校風で3年間過ごした時に、それは自分の意志では無く、他者からの期待で形成されたものだと気づく。

(2)エリスとの出会い

彼は以前は忠実に仕えていた日本の上司に対して、生意気な意見をしたり、危険な立場になっていくのを自分でも理解していた。そんなある日、エリスという若く美しい娘と出会った。彼女はその日父を亡くした後でもはや身売りされる寸前の踊り子であり、彼に助けを求められた。彼は急場しのぎに時計を質屋に持っていくように伝え、彼女を助ける。

(3)免官

その後、豊太郎とエリスは、主に学の無い彼女を彼が指導するという形で交際を始めるが、留学生仲間にそのこと知られ、上司に報告されてしまう。かねてより、不仲になっていたこともあり、豊太郎はその1件で免官されてしまう。道半ばに日本に帰っても出世の道は無いと考えた彼は同じく留学していた友人の相沢に助けを借り、新聞社の現地派遣員となって生活を取り持った。

(4)エリスとの慎ましく楽しい日々

新聞社の現地派遣員として働き出した豊太郎は、実際にエリスと恋仲になり、彼女の説得で彼女の母と3人で生活をしながら、少ない給金の中で慎ましくも楽しい日々を送った。仕事の方でも学ぶことが多く、留学生の中にはドイツ新聞の社説すらまともに読めない者もいる中で、彼は新聞の論説など深い部分まで理解できるようになった。しかし一方で、出世の道からは相変わらず外れており、不遇な思いを抱いていた。

(5)大臣のお供

豊太郎は相沢の口利きで大臣から依頼された翻訳の仕事を務めることになる。相沢は豊太郎に今後の為にエリスとの仲を辞める旨伝え、豊太郎は本意では無かったがそのことを承諾する。やがて、翻訳の仕事を認められた豊太郎は大臣からロシア行のお供に誘われる。豊太郎はその誘いを吟味しないまま承諾してしまう。彼の再びの出世への道を感じ取ったエリスは彼を問いただし、妊娠していること、またその後の結婚を匂わせる。

(6)帰国

ロシアから1月に及ぶお供を終えてベルリンに戻った豊太郎はエリスと会い、深い愛を感じる。しかし、すぐに大臣から呼び出され、一緒に日本へ帰国するように言われる。彼は再び本意に反し、その誘いに承諾してしまう。彼はエリスへの深い罪の意識を感じ、満身創痍で帰宅するとそのまま倒れ込んでしまう。2週間後、ようやく体調が回復するとエリスは精神病を患い、狂人のようになってしまう。その理由は相沢が訪ねた際に彼女へ豊太郎の帰国の話をしてしまっていた為だった。豊太郎は失意の内に帰国する。相沢へ一筋の恨みを心に抱いたまま。

3.魅力

日本の近代社会が作られていく中で、公の使命と私の幸福に挟まれたエリートの葛藤が陰鬱な雰囲気の中に描かれている。豊太郎は遂に自らの意志を貫くことは出来ず、その一方で使命を果たす為の出世の道は叶ったのである。この物語は森鴎外の実話を基にしている部分が多く、実際にエリスのモデルとなった女性はこの後、日本へ来ているのである。しかし、鴎外の親族たちは見合いの最中であったこともあり、彼女を帰国させた。鴎外は後年、『別離』という詩などで彼女への恋慕を深く描いている。

 

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