純文学1000本ノック 127/1000 柳美里『JR上野駅公園口』
こんにちは。
今回は芥川賞作家である柳美里の『JR上野駅公園口』です。この作品は全米図書賞を受賞しています。
1.ざっくりあらすじ
主人公はすでに死んでおり、霊体のようなものとして世界を見ている。平成天皇と同じ年に生まれ、故郷の福島から出稼ぎで東京で土方をして、下の兄弟を学校へやり、結婚して子どもを育てた。息子の浩一は皇太子と同じ日に生まれたので、「浩」の一字をもらった。浩一は社会人になる手前で死んでしまう。退職しのんびり過ごそうとしていた矢先、妻にも先立たれた主人公は、世話に来る孫に負担をかけないよう家を出る。ふたたび来た上野駅でホームレスになる。そして自殺する。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
一人称で語りが中心。自らの過去を回想しながら、現在の上野や東日本大地震を霊体として見ている。
(2)構成★★★
現在の世界と主人公の過去が折り重なって構成されている。上野駅のホームの音や息子の死、天皇について繰り返し言及することにより、主人公の内面を掘り下げていく。
(3)論理★★☆
きちんと取材がなされているようで、語りにも十分なリアリティがある。
(4)テーマ★★★
現代の天皇制について、ホームレスという立場になった男性を主人公にして批判的に捉え直している。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
日本の光と闇を照らし出したテーマに深く触れている。語り中心の文体と構成はそれを表現するための手段として、効果的に発揮されている。