純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 129/1000 町屋良平『1R1分34秒』

こんにちは。

今回は2019年に芥川賞を受賞した町屋良平の『1R1分34秒』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公は21歳でプロボクサーをしながら、パチンコ店でアルバイトをしている。しかし、デビュー1戦目のTKO勝ち以降、負けが込み、1勝2敗1分という戦績である。そして、また一敗し、トレーナーも交代し、アルバイトもクビになり、人生に絶望的な気分をいだく。その後、新しいトレーナーのウメキチに反抗しながらも徐々に信頼を深め、充実したトレーニングを繰り返し、勝利への思いを強めていく。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

一人称で、ひらがなを多用した文体。思考も低次元なものから高次元なものへ自在に行き来する。それらが独特の雰囲気を生み、主人公の特異性を際立たせてゆく。

(2)構成★★☆

作品のメインは五戦目の前日譚から、六戦目の試合前までである。おおむね時間軸に沿ってはいるのだが、主人公の語りによって時間軸も移り変わるため、ときたまいつなのかわからなくなる。ラストの展開は驚きと失望感があったが、奇妙なことに読後しばらくして心地よい終わりに思えてくる。

(3)論理★★☆

いつも美術館への誘いをしてくるアマチュア映画を撮っている友人や、トレーナーのウメキチなど不思議なキャラクターは多いが、きちんとリアリズムの枠のなかにある。

(4)テーマ★★☆

「若さ」や「青春」、「反抗」、「人生への迷い」などが散りばめられている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

今回の作家の作品で読んだのは、デビュー作の『青が破れる』と二作目だが、主人公の語りがより濃密になり、作品全体が深まったように思える。