純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

村上春樹『海辺のカフカ』 生死の境を越えた謎深き世界と、自らの運命に翻弄される少年の物語 純文学1000本ノック28/1000

どうも、こんにちは。

今回は、日本の代表的な作家である村上春樹の謎多き名作『海辺のカフカ』を読んだよ。15歳の僕(田村カフカ)の成長物語であり、生死や人間を超越した存在が登場する謎多き物語だった。読者の考えに委ねるということで、公式な見解は村上春樹自身も出していないため、末尾の解説もどきは全く僕自身の考えであることを先に書いておくね。

 

村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ - 上野日記

 

 1.読後感
読み終わると同時に、自分自身の思考の7割がこの作品の世界について考えているような状態が1日続いた。なので残りの3割で日常生活をした。不思議な魅力と昔抱いた淡い想いがもう1度身体を包み込み、うすい膜のようにしばらく剥がれなかった。読後にその作品のことが頭を、あるいは身体を離れようとしないのは、どんな作品ジャンルや、映画、音楽などの垣根を越えた名作の共通項だと思うが、まさにこの作品はその感覚を呼び起こすものだった。

2.ザックリあらすじ

(1)田村カフカ 

物語は「僕」を一人称とした15歳の「田村カフカ」(本人が作り出した偽名)と、猫と会話できるナカタさんという老人の二軸で進んでいく。田村カフカは家出を決心しており、彼の心に巣くうカラスと呼ばれる少年と相談しながら、家出をする。

(2)ナカタさん

ナカタさんは第二次世界大戦中、疎開先の山梨の山中で不可思議な事件に巻き込まれ、以前の記憶を喪失し、文字も読めなくなる。その代わり彼は特殊な能力を宿し、猫とも会話が出来るようになり、年老いた現在は都から出る障がい者への補助金と猫探しの礼金でささやかな生活を送っている。

(3)甲村記念図書館

田村少年は家出し、香川県高松市にたどり着く。道中の高速バスの中で美容師をしている、さくらという女性と出会う。彼女は彼に優しくしてくれ、連絡先を渡す。高松市では、安いホテルに泊まりながら規則正しい生活を送り、甲村記念図書館という私立の不思議な雰囲気を持つ図書館に出会う。彼はそれからそこに毎日行き、司書をする大島さんという中性的な男性と仲良くなる。

(4)父の死

田村少年はある時、唐突に意識を失い、着ていた服に血がついている。それと時を同じくして、別軸のナカタさんは田村少年の父(ジョニーウォーカーと名乗る猫殺しの男)を殺してしまう。田村少年は戸惑い、さくらに助けを求める。彼女は優しく彼を家に泊まらせてくれる。思春期の性に悩まされ、さくらの家を出て、行き場を失った少年は、大島さんと話し、彼が少年を図書館で寝泊りし働くように便宜を図ってくれる。図書館の館長は佐伯さんという美しい中年の女性である。少年が泊まる部屋には、彼女が15歳の頃の姿で現れ、彼女とセックスをする。翌日、少年は彼女が自分の母だと言う仮説を本人に話し、好きになっていることを告白する。その夜、2人は今度は現実の姿で交わる。

(5)大島さんの小屋

父の死により、警察が家出していた田村少年を探し始めた為、大島さんは少年を高知の山奥にある小屋にしばらく泊める。一方のナカタさんは一度自首したものの、相手にされず、天命のごとき予兆を感じて、旅に出る。彼は独特の人柄で道中様々な人の助けを受けながら、やがて星野というトラック運転手の青年と出会い、彼と共に高松市まで来る。彼らはナカタさんの予兆に従い、生死の境を司る入り口の石を見つけ、入り口を開ける。山奥の田村少年は、父の予言(父を殺し、母と姉と交わるだろう)に恐れながら、それに追われることに疲れ果て、夢の中で義理の姉であるさくらを犯す。解放された彼は山の深い場所まで歩き、その入り口にたどり着く。

(6)佐伯さんの死

遂に甲村記念図書館にたどり着いたナカタさんは、館長の佐伯さんと話す。彼女はその日、亡くなる。ナカタさんは最後の役目である入り口の石を閉じることをしようとするが、その前に力尽きてしまう。田村少年は、入り口に入り、死者の世界で15歳の佐伯さんと会う。彼女は彼の食事などの世話をしてくれる。しかし、現在の佐伯さんが彼の元に現れ、現世に戻るように言う。そこで彼は母から愛されていたことを知り、再び入り口を通り、現世へと戻ってくる。ナカタさんの意志を継いだ星野は猫と話せるようになり、猫のアドバイスを受け、入り口の石を閉じる。成長した田村少年は東京に戻り、中学校を卒業することにする。

3.解説

最初にあくまでこれは個人的な解説であることを断っておく。この物語は、ある一面では15歳という思春期の少年の成長物語である。そこには通常の少年が思い悩むものとはある意味かけ離れた不思議な世界がある。しかし、これは作中で頻繁に登場する言葉を用いれば一種のメタファー(隠喩)であり、村上春樹流に、少年のギリシャ悲劇などをベースとする壮大な葛藤と成長を描いた作品であると言える。例えば、作中に出てくる「父を殺し、母と交わる」は、オイディプス王の悲劇であるが、後にフロイトにより、少年の心理的発達の一段階である思考として「エディプス・コンプレックス」として取り上げられている。つまり、この作品全体を俯瞰して見ると、様々な不思議な物事がメタファーとして機能し、少年の成長を描き出しているのである。故に、真にこの作品を理解する為には、心理学的な勉強が必須であると言える。

 

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