純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 81/1000 大江健三郎『飼育』

どうも、こんにちは。

 

今回は大江健三郎の『飼育』です。日本人として二人目にノーベル文学賞を受賞した作者の当時最年少だった芥川賞受賞作です。

 

1.ざっくりあらすじ

戦時中、谷間の村に父と弟と三人で住む主人公の僕。町との橋は大雨による土砂崩れで塞がれ交流はしばらくたたれていたた。そんなある日、アメリカ軍の飛行機が村に墜落する。大人たちが生き残った一人の黒人兵を捕虜として村につれてくる。大人たちはその処理に困るが、子どもたちは興奮し、黒人兵の奇妙な飼育が始まる。僕や村の人々はやがて黒人兵と心を通わせはじめる。しかし、県庁からの伝令におののいた僕は黒人兵を助けようとして逆に人質にされてしまう。結局、黒人兵は殺され、盾にされた僕は掌を鉈で引き裂かれる。僕は一連の出来事のなかから自分がもう子どもたちと同じ次元にはいれないことを自覚する。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

一文一文の長い詩的な表現をもちいた文体である。そのなかに、グロテスクさや子どもの無邪気さがよく表現されている。

(2)構成★★★

時系列に沿っているが、各々の人物を際立たせる過去描写もおりまぜた巧妙な構成になっている。

(3)論理★★★

論理的に不明な点は特にない。

(4)テーマ★★★

国家とも深く隔絶されたひとつの村からみた戦争、というものを強く感じた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★★

詩的な文体に加え、作品全体に深い人間洞察や社会洞察が含まれているように感じた。