純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 82/1000 大江健三郎『人間の羊』

どうも、こんにちは。

 

今回は大江健三郎の『人間の羊』です。日本人として二人目にノーベル文学賞を受賞した作者の短編小説です。

 

1.ざっくりあらすじ

家庭教師のバイト終わりにバスに乗り込んだ主人公の僕は、陽気に酔っぱらった外国人兵たちの間に座ってしまう。外国人兵たちと一緒にいた日本人の女が公衆の面前でのあからさまなアプローチを嫌って僕に寄りそってくるが、僕は周囲からの視線に耐えられず女を突き放す。ちょうどバスの揺れと重なって、女は仰向けに倒れた。そのことに激怒した外国人兵は僕のズボンを脱がし車内で立たせる。そして、指で僕の尻を叩きながら歌った。外国人兵たちはエスカレートし、後部座席の乗客の尻も出させて同じことをした。やがて、外国人兵が去っていくと前方に座っていた乗客たちが、同情と好奇心をもって僕たちに声をかける。その一人の教員風の男が、訴えなさいと言う。僕たちはショックで喋ることもできないが彼は強く言う。尻を出されたうちの一人が教員を殴り、皆は散り散りになる。僕がバスを降りると、教員がついてきて訴えろとしつこく言ってくる。僕はやがて懸命に教員から逃げようとする。最後に教員は、外国人兵の恥も、お前の恥も絶対に暴いてやる、と逆上する。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

詩的な感覚を多用した文体である。

(2)構成★★☆

時系列に沿って進められている。最後に善人ぶっていた教員がおそろしい逆上をするのは見事な展開である。

(3)論理★★★

出来事に対する若干の論理的飛躍性はあるが、いい意味で機能している。

(4)テーマ★★☆

現代で言うセカンドレイプを取り上げている。被害者である僕の心中と傍観者である教員の加害者への変貌を見事に描いている。しかし、短さもあり一点突破的な作品ではある。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

事象としては違うは現代にも起こりうる普遍的な人間の問題を描いた作品。