純文学1000本ノック 80/1000 大江健三郎『万栄元年のフットボール』
どうも、こんにちは。
今回は大江健三郎の『万栄元年のフットボール』です。日本人として二人目にノーベル文学賞を受賞した作者の代表的作品として世界中で読まれている作品です。
1.ざっくりあらすじ
妻との間に生まれた赤ん坊が重い障害をもっており、養護施設に預けてきた主人公の蜜は、東京で妻と退廃的な生活を送っていた。そこへアメリカから帰ってきた弟の鷹が新しい生活をしなければいけないと助言し、一緒に故郷の四国へ行くことを進める。彼らは谷間の町へ帰るが、鷹はそこの若者を訓練し百年前に先祖が起こした一揆の再現を画策する。最初止めていた蜜は次第に関わらないようになる。冬を迎えて外部との接触が断たれたときに鷹の一団は町に入ってきたスーパーマーケットを襲撃する。暴動は谷間の住人すべてを巻き込むことで成功するが、鷹は不意の事件から自らの過去の過ちを密に告白して自殺する。蜜は鷹の言っていたことを否定的に見ていたが、最後にそれが間違っていなかったことを理解し新しい生活を送ろうとする。
2.作品解剖
(1)文体★★★
まわりくどい言い回しを多用し、そのなかで既存の言葉に新しい意味づけをしているように感じた。はじめは読みにくさがあるが、読み進めていくうちにとても正確に物事をあらわそうと努めていることがわかってくる。
(2)構成★★★
失意の主人公と、大きな暗い影をもった弟、そして奇妙な自殺をしてしまった友人など、各々の要素が最後まで効果的にいきてくる。歴史上の出来事を現在と重ね合わせた手法も見事である。
(3)論理★★★
論理的に不明な点は特にない。
(4)テーマ★★★
「自らに正直に積極的で破滅的なエネルギー」と「自らを偽った消極的で穏やかなエネルギー」に矛盾した自我を描こうとしたのだと思った。
3.総合評価と感想
総合★★★★★
くどい文体で面食らってしまうところは否めないが、読後にはとても正確な表現を意図しているのだと感じた。自己のなかで矛盾する力を小説として高度に描き切ったすばらしい作品だと思う。