純文学1000本ノック 94/1000 青野暦『穀雨のころ』
どうも、こんにちは。
1.ざっくりあらすじ
高校生四人の詩的群像劇という雰囲気。サッカー部を病気により休んでいるハツは、サッカーの才能がなく、あるとき美術部のエミに声をかけられモデルになり、自分も絵を描く楽しさに目覚める。エミは自分の性格に嫌悪しながらも素直なハツを絵に描き、詩の勉強会で惹かれていた講師に告白する。サッカー部のキャプテンでハツと仲のいいヒビキは、水のように固定されない自分像に嫌悪しながらも周囲にあわせて生きている。やがて、幼馴染でマネージャーをつとめるアサに惹かれていることに気付く。大学生の彼氏に思うように求められていないことに悩むアサは、ヒビキの昔の姿を思いだしながら、ヒビキを彼氏の代替の存在としてふれあったりする。
2.作品解剖
(1)文体★★★
三人称で四人の視点を使っている。言葉を自らの視点で構成しなおして、小説という形にまとめているという感じ。詩的で、深い観察に裏打ちされた描写がおおい。ただ、冗長でわかりにくい箇所もあり、同じペースで作品がつねに進むので濃淡がほしいようには思う。
(2)構成★☆☆
四人の視点を使っていて、詩的な書き方が多用されることもあり、部屋のなかに無数におかれた抽象画を延々と見ているような感覚になる。それはこの作品がもつおもしろさである一方、わかりにくさにもなっている。四人の視点は章ごとにある程度わかれているが、まじわっている部分もあり、改良の余地がある。また、四人分の物語を同時進行で読んでしまうと一読者としてノリにくい感覚がある。
(3)論理★★☆
とくに引っかかるところはなかった。冒頭からこの作品の世界にどっぷり入るため、奇妙な世界も当たり前に変わってしまう。
(4)テーマ★★☆
「ことばの向こう側」という風に読んだ。その意味での表現は成功しているように思う。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
この作品は文体に価値があり、同時に文体に縛られて面白さやわかりやすさを減じているように思えた。地力は非常に大きい作者だと思うので、作品全体での描写のバランスと、人称を減らせば、より多くの人に受け入れられる作品が出来あがると思う。