純文学1000本ノック 111/1000 須賀ケイ『わるもん』
どうも、こんにちは。
今回はすばる文学賞を受賞した須賀ケイの『わるもん』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公の純子は、ぼんやりしていて近所の子どもたちから馬鹿にされている。ある日、純子以外の家族みんなに疎まれていた父が家から追い出される。純子は父の不在を徐々に理解していき、母から父との伝言係を頼まれる。純子の年齢が二十八歳であることが明かされる。父の仕事中の姿をみた純子は父が外ではきちんとしていることを知る。父のいなくなった家は荒れていき、やがて父は戻ってくる。母が純子の描いた絵を見て賞に応募すると、賞状が贈られてきた。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
純子による三人称的一人称で、分からない言葉も多い。知的障害のある人の目線で自由に飛び交う思考を描きだしている。
(2)構成★★☆
中盤まで純子が子どもであると読者がミスリードするようにつくられている。レーズン、父、わるもん、という三つが最後に概念を覆すように構成されていて、うまいが、やや小説的にうまくまとめすぎているように思える。
(3)論理★★☆
二十八歳になるまで親が純子の絵を見ていなかったことなど、やや論理的に問題に思える部分はあるが、そこまで気にならなかった。
(4)テーマ★★☆
ある物事の別側面をとらえる、というところに重きを置いているように思えた。そして、その試みはうまくいっていると思う。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
作中で悲しいこともあるが、純子のフィルターを通すことにより世界はきれいに見える。文体の奇妙さと、構成のまとまりがある、完成度の高い作品だと思う。伏線が最後にきれいに回収されすぎている感じはあるので、文学的な余情は残しつつやりすぎないともっといいように思った。