純文学1000本ノック 66/1000 中上健次『十九歳の地図』
どうも、こんにちは。
今回は中上健司の『十九歳の地図』です。四十六歳という若さでこの世を去り、日本文学界においてもはや伝説的な存在となった作者のデビュー作です。
1.ざっくりあらすじ
東京で予備校生として新聞配達員として働きながら、新聞配達員たちの寮に住む十九歳の貧しい主人公は、配達先で気に入らない人や金持ちがいると地図に×印をつけ、自分の地図を作り、自分なりの処罰を妄想の中で与えている。彼は勉強をする意味も社会で成功する意味もわからず予備校にはほとんど通わずに過ごしている。彼は自分自身に対する投げやりな感情から、×印のついた配達先の家に脅迫電話をする。その癖はエスカレートしJRにたいして車両の爆破予告をするまでになる。しかし、底辺を生きる売春婦の女性に電話で死ぬように言ったことで自分のなかに深い後悔の念があらわれる。
2.作品解剖
(1)導入★★★
‟部屋の中は窓も入り口の扉もしめきられているのに奇妙に寒くて、このままにしているとぼくの体のなにからなにまで凍えてしまう気がした。”からはじまる本作。ぬめぬめして暗く寒い状況、十九歳というエネルギーに対する早熟で厭世的な雰囲気が冒頭から描かれていく。
(2)文体★★★
ひらがなを多用する文体で、暗く破壊的なエネルギーに一種の幼さと柔らかさが宿っている。描写は緻密で、青年の環境の悪さや貧しさと裕福さに対する眼差しが描き出されている。内面は、直接的に吐露されることが多く、粗暴な雰囲気が出ている。真新しい比喩表現も多用され効果的な部分も多いが、冗長になっている部分もあった。
(4)構成★★☆
青年は破壊的で凶暴な妄想を繰り返すが、実際に行うことは脅迫電話程度である。心に愛のようなものがあることは最後に分かるが、救いのない彼はこれからどこへ向かってしまうのかと思わされた。
(5)論理★★☆
特別な論理的矛盾点はない。ただ青年の過去が一切描かれないためになぜこのような人間となったのかは不明なままである。
(6)テーマ★★☆
『階級』と自分の世界を作り上げることでそこから逸脱したように考えようとする青年の葛藤がみられる。彼は自分の世界を作り上げても結局「持てる者たち」に恨みを抱き、破壊したい欲望に捉われるのである。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
伝説の始まりということで読んだが、たしかに近年の受賞作では見ない深堀、描写力があった。近年の傾向である物語としての展開はすくないが、その話をこの作品に持ってくるのは野暮だろう。