純文学1000本ノック 65/1000 志賀直哉『城の崎にて』
どうも、こんにちは。
今回は志賀直哉の『城の崎にて』です。今でもその緻密な描写力に定評のある、志賀直哉の短編代表作の一つです。
1.ざっくりあらすじ
電車にひかれ、大けがをした主人公は、城崎温泉に療養旅行に行く。彼はそこで、宿で見た死んだ蜂や、川でなぶり殺されそうになっていた鼠、山のふもとで誤って殺してしまったいもりに死を感じ、自分と重ね合わせる。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟山手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉に出掛けた。”からはじまる本作。短編ということもあり、簡潔に出来事を並べ、今現在の状況を説明している。
(2)描写★★★
非常に短い短編にも関わらず、濃淡を丁寧に使い分け、死の匂いを見事に描き出している。
(3)内面★★★
主人公の内面を、淋しいや、静か、など、どこかぼんやりとした言葉を中心に描いている。ぼんやりとはしているが、描写と相まって終わりにはその感情の輪郭が見えるようになる。
(4)構成★★☆
山手線で事故に遭った出来事から、療養先で見たものと感情の揺れ動き、結局死なずに生きている現在、という構成。この短さだがまとまっている。
(5)論理★★☆
山手線に跳ね飛ばされて、死なない程度の怪我をする、というのが可能なのか不明だが、他に気になる論理的矛盾点はない。
(6)テーマ★★★
『生』と『死』について、実際に死に接近し、考えたことが見事に描かれている。
3.総合評価と感想
総合★★★★★
短編作品として、これ以上ないのではないかと思わされるテーマの掘り方を感じた。緻密な描写と内面描写が主人公の考える『生と死』を色濃く描き出すことに成功している。