純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 42/1000 ヘッセ『春の嵐』(ゲルトルート) 青春の甘く苦い思い出たち

どうも、こんにちは。

 

 今回は、ヘッセの代表作の一つ『春の嵐』。音楽家の青春を瑞々しく描いています。

 

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1.読後感

青春の熱情とそれを越えていく境目の昔を懐かしむような、心地よいものが身体にすっと入って来た。

 

2.ざっくりあらすじ

(1)足

楽家志望だが、自信が無く踏ん切りのつかないクーンは、学生の頃酒を飲み遊び呆ける退廃的な生活を送っていた。その中で、リディという美しく奔放な同級生に惹かれていた。ある日、仲間とソリ遊びをした時に、リディに焚きつけられて急な斜面を下り、大けがを負ってしまう。その後、彼は足を引きずって歩かなければいけない生活と女性への自信の無さを背負っていく。

(2)ハインリヒ・ムオト

音楽学校でまだ将来について思い悩んでいたクーンは、ムオトという有名な歌手と知り合いになった。ムオトはクーンの作曲した作品を気に入ってクーンを特別に扱った。ムオトは無名なクーンを家のパーティへ招待し、クーンの曲を歌った。ムオトのおかげでクーンは就職も決まった。しかし、ムオトの他者へのぞんざいな扱いや自分自身への破壊的な行動が、クーンを悩ませる。

(3)ゲルトルート

一年間第二バイオリニストの仕事やムオト、タイザー(第一バイオリニスト)などとの関係に終始していたクーンだったが、音楽会で金持ちの工場主のイムトル氏と知り合った。彼は音楽への想いが強く、家へクーンを招待した。その家でクーンは、イムトル氏の美しく気品のある娘ゲルトルートと知り合う。クーンは一目惚れし、彼らは音楽を通じてすぐに打ち解ける。クーンは頻繁にイムトル家を訪れるようになる。

 (4)オペラ

作曲で成功を収めたクーンは仕事を辞め、美しい歌声を持つゲルトルートとの練習を楽しみながら、自身初めてのオペラ制作に取り掛かる。その間に彼はゲルトルートへ手紙で想いを伝えるが、彼女は友情を望み、二人はそのままの関係に保たれた。次第にオペラの完成が近づいて来ると、彼はムオトに主役を務めてもらおうと話に行く。ムオトは快諾し、イムトル家で三人で演奏をすることが増えた。ゲルトルートは最初自尊心の高いムオトを嫌っていたが、次第に打ち解けていく。

(5)失恋

クーンは、ゲルトルートの悩ましい表情を見て、ムオトに会いに行く。ムオトの部屋には、彼女からの手紙があった。クーンは、二人の関係を悟り、二人の間から姿を消す。彼は死ぬことを覚悟し、数日を過ごすが、いよいよ決心した時になって母から電報が届き、父の危篤を知る。死ぬ間際の父は全てを悟り、クーンへ声をかける。

(6)成功と失敗

クーンの父が死ぬと、母との距離のある関係を修復しようと試みるが、失敗に終わり、ゲルトルートのいる街へと戻る。ムオトとゲルトルートはクーンの予想に反し、結婚した。クーンはお祝いの曲を書いた。完成したオペラはムオトの主導の元、公演し、大成功を収める。彼は母が同居しはじめた、いとこと揉めていることを知り、状況の解決を図り、母を連れて、二人で住むようになる。しばらくして、ムオトの激しさに疲れ切ったゲルトルートが街へ戻ってくる。

(7)ムオトの死

ムオトは躍起になって、ゲルトルートを取り戻そうと街へ現れ、回復し始めていたゲルトルートは却って衰弱してしまう。ムオトはゲルトルートがもはや戻らないことを悟り、酒浸りの生活を送る。彼はクーンのアドバイスも耳に入れず、死んでしまう。クーンは生前のムオトより死後の彼をより深く愛した。ゲルトルートはそれから誰とも口づけをしなかった。彼らの青春は終わった。

 

3.魅力

前半はやや難しい言い回しで、意味も無く長い印象を受ける。しかし、激情的なムオトが現れた辺りから物語自体もクーンの内面部分も大きく進んでいく。物語はそこから、ムオトとゲルトルートを常に中心に置いて進んでいく。その中には、青年から老年の実存哲学や、美しい風景描写を伴って、結末へと向かっていく。芸術家を目指す青年クーンの悩みや成功も、この物語の大きな魅力である。

 

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