純文学1000本ノック 52/1000 崔実(チェ・シル)『ジニのパズル』
どうも、こんにちは。
今回は崔実のデビュー作『ジニのパズル』。2016年群像新人文学賞を受賞し、芥川賞候補にもなった作品です。
1.ざっくりあらすじ
在日朝鮮人として生まれたジニは、小学生まで日本の私立学校に通っていたが、中学生になるときに朝鮮学校に入学した。彼女はそこで起こした出来事によって、日本にいられず、アメリカでホームステイしながら高校生活を送っている。彼女はアメリカの学校も退学になりそうになり、自分の過去と向き合いはじめる。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟その日も、いつもとなんら変わらない日だった”からはじまる導入部分。感受性の高いジョンという子が一人で泣いている教室で誰も彼の存在を気に留めない学校の残酷さを描いている。無気力にそれを観察する自分もうまく表現されている。
(2)描写★★☆
前半部分は、ライ麦畑のサリンジャーのように、主観的で皮肉の利いた表現が多用されている。その部分は作品として、まとまりを欠いていると思う。が、ビスタ・ハウスでの風景描写などは非常に美しい。128Pの‟何度も何度も腕を引っかいた~川は、どんどん増えていった”の表現は非常に豊かな才能を感じた。
(3)内面★★☆
在日朝鮮人として、民族的アイデンティティが確立されないまま、苦悩する姿が見事に描かれていた。
(4)文体★★☆
一人称で、高校生のジニ視点で、繊細で大人びた雰囲気が出ていると思う。サブタイトルは面白い。56Pからのシーン3という脚本式の導入は面白いが、作品のなかでそこまで重要な役割を果たせず、いれなくて良かった印象。
(5)構成★★☆
現在の生活、紙への告白という形式での過去編、合間に北朝鮮の祖父からの手紙、過去と向き合い成長した現在という形式。
(6)論理★★☆
基本的に一本筋が通っているが、肝心の肖像画破壊の展開への動機がやや弱く感じた。また、初恋のくだりなどはジニの頑固さを表すエピソードでもあるが、すこし突飛な内容に感じる。
(7)テーマ★★☆
在日朝鮮人としての複雑なアイデンティティと世界と自分の過去を受け入れられず積極的に生きられない自分というようなテーマだと感じたが、時代背景の違いからか先駆者である金城一紀の『GO』ほど突き詰められていないような気がした。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
作品全体として「ジニ」という魅力的なキャラクターの行動、考え方、事象の重大さ、などがマッチしていない部分があるように感じた。が、その部分を抜いても非常にクオリティの高い作品として成り立っており、在日朝鮮人について、無知だった自分をあらためて認識し、理解の助けとなる本だった。