純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 110/1000 高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』

どうも、こんにちは。

 

今回はすばる文学賞を受賞した高瀬隼子の『犬のかたちをしているもの』です。

 

1.ざっくりあらすじ

 主人公の薫は、二十七歳から郁也と付き合いはじめて三年になる。彼女は大学生のときに卵巣の手術をし、それ以来セックスに対する抵抗感がでるようになった。郁也とははじめの数カ月だけ関係をもち、その後はしていない。郁也もその事情を考慮してくれていたが、ある日、郁也に紹介され、郁也の子を妊娠したミナシロを紹介される。ミナシロは産んだあとの子どもを引き取ってくれないかと言う。主人公は、男や女、セックス、周囲からの圧力、家族、さまざまなことに悩みながらも、子どもを得てからの親や親戚のことを思い、受け入れようとする。出産したミナシロはやっぱりあげられないと言う。薫はピルをやめ、郁也とふたたび妊娠のためのセックスをしようとする。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

一人称、描写のあいまに膨大な思考がめぐるかたちになっている。現代性の高い「LINE」や「イオン」などの単語選びから、思考の変遷までリアリティの高い出来になっている。

(2)構成★★☆

田舎のことや、男性嫌悪のこと、人との付き合い方など、主人公を取り巻く要素が小出しにされ、目移りしてしまう箇所がある。しかし、最終的には主軸にきちんと戻っており、一つの小説としてまとまりがある。

(3)論理★★☆

前半部で高校生のころ、東京に出たいと思っていたのではなく自分に合う偏差値で探したときに東京になったとある。一方、後半では田舎の環境が嫌で東京に出たくてたまらなかったとある。前半の想いは思いこみだったかもしれない、と説明はあるが、やや矛盾を感じた場面として残った。人物から心象までリアリティがあり、他にはとくに感じなかった。

(4)テーマ★★☆

女であること、から、自分はどう生きるか、というところまで掘り下げられていく内容だったように思う。やや言葉での語りが多いが、深く掘り下げられている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

本当の事情は不明だが、一部が私小説のように思えてしまうほどリアリティに満ちた小説だった。主人公の明晰な思考がそれを支えている。この感覚をもっと描写に落としこむことができれば、すごい作品ができそうだと思う。