純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 86/1000 吉行淳之介『原色の街』

どうも、こんにちは。

 

今回は吉行淳之介の『原色の街』です。作者の創作初期に当たる作品です。

 

1.ざっくりあらすじ

三人称複数形で、主な主人公は娼婦のあけみ、汽船会社勤めのサラリーマン元木英夫という形。狭い路地にネオンのかがやく娼婦の街で三か月ほど経ったあけみは、行き場は他にないと思って情も身体の快感も覚えない金のみによる性行為を淡々とこなしている。しかし、同僚に連れてこられた元木と出会い愛情と性の目覚めの予兆を感じる(元木が酔っていて関係はもたなかった)。あけみは薪炭商で財を成した男とのセックスの際に身体の快感を得る。今後の自分が不安な中、一回きりで訪れない元木の幻想に憎しみを覚える。元木は見合いで知恵おくれの娼婦のような瑠璃子と出会った後にあけみを買った。娼婦らしくないあけみに興味を覚えたが、結婚する気もないまま家柄のいい瑠璃子と付き合い関係をもつ。あけみからの誘いで元木は店に顔を出すが、娼婦らしく身をよじるあけみに元木は興味をなくす。あけみは薪炭商の男に婚姻を迫られ承諾してしまう。船のレセプションパーティーで二人は再会し、あけみは元木を海に突き落とす。救助されたあけみは娼婦の街に戻っていこうとしていることを自覚する。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

三人称複数形でやや冗長な語り手が物語を進める。わかりにくさはない。ただ全体の長さに対して二人分の感情を十分に描こうとしているため、感情表現に相当な文量を割いている。隠喩を用いた感情の機微がわかりやすくうまいが、男女間の細やかな感情の理解を誇示しているように見える部分もあり胸焼けしそうではある。読者の感情移入をより進めるには一人称にするか、ドストエフスキーのように長大な作品にすることが必要かと思う。

(2)構成★★☆

おおむね時系列に沿う形で、登場人物意外に語り手目線の描写や説明も入る。後半は矢継ぎ早に展開が進む。丁寧に進めればもっと長編になる題材と思える。

(3)論理★★★

特に矛盾点はない。驟雨もそうだったが感情の描写は詩的に書かれている一方、非常に論理的で作者の観察力がうかがえる。

(4)テーマ★★☆

肉体の快楽と、精神の愛情の境界線を見定めようとした作品に思えた。私が読んだのは、元々あった『原色の街』と『ある脱出』という作品を組み合わせたものだったようで、そのせいか混じっている部分と分離しているような部分が見受けられた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

人間にたいして透徹した作者の冷たい眼と、詩的な表現力が存分に発揮された作品だと思う。しかし、二作品を重ね合わせたためか、やや過剰で胃もたれする印象。