純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 100/1000 新庄耕『狭小邸宅』

どうも、こんにちは。

 

今回はすばる文学賞を受賞した新庄耕の『狭小邸宅』です。

 

1.ざっくりあらすじ

一流大学を卒業するも、深く考えずに中堅の不動産屋に入った主人公は、物件が売れずパワハラと残業ざんまいの日々をおくる。おだやかな彼女もできたが、別の支店へ転勤になり、そこで出会った豊川課長に育てられ、売れる営業マンとなる。身のうちに潜む空虚感は拭えず、発狂するようにして終わる。

 

2.作品解剖

(1)文体★☆☆

一人称で、説明のおおい、エンターテイメント的な文章。身から出た錆などありきたりな表現を多用している。時間の経過も早く、要点をとらえて進むので疾走感があり読みやすいが、純文学の文体としての評価は低くなってしまうかもしれない。

(2)構成★★☆

まったく売れない営業マンから成功していくが、空虚感は消えないという作りになっている。作り込まれていすぎるような印象もあるが、きれいなストーリーに思える。

(3)論理★★☆

とくに矛盾する点はない。女性キャラクターはやや都合よく描かれているようにも思える。

(4)テーマ★★☆

自意識の発達した人が生きていくうえでの困難さを感じた。社会全体として、個性が求められるようになっている現代においては、多くの人に当てはまる問題だと思う。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

作品全体の比率としてはエンターテイメント小説だと思えた。実際に作者はその後、エンターテイメント系の「小説すばる」でも書いているようである。この小説は現代の問題を直接に取り上げて描きだすので、読んでいて面白いうえに身に沁みるものがあった。