純文学1000本ノック 101/1000 米田友歌里『トロンプルイユの星』
どうも、こんにちは。
今回はすばる文学賞を受賞した米田友歌里の『トロンプルイユの星』です。
1.ざっくりあらすじ
従業員が四人のイベント会社に勤務する主人公の藤田サトミは、地震のたびに誰かに掴まれるような感覚を感じていた。ある日、職場の久坂に誘われ街中の交差点を見に行く。サトミは久坂に好意を覚えるが、その後、職場のまわりから物や人が消えていくようになる。久坂はそれに気づくと、自分のせいだと言い、サトミは転職して久坂と離れることを決めるが、前の職場も消え記憶も改ざんされていることに気付く。サトミは多くのことを忘れ、新しい職場で働く。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
一人称で、癖がなく清潔感のある文体。ものに対する独特の感覚的な表現もおもしろい。
(2)構成★★☆
中盤からミステリ調で、徐々にまわりからものや人がなくなっていく。前半の調子でも十分読んでい心地よいので、あえて大きな転調を起こさなくても通用するように思える。
(3)論理★★☆
ファンタジーな設定はでてくるが、小さな現実の部分でとくに矛盾する点はない。
(4)テーマ★★☆
自分の認識や成り立ちについて、揺るがされることによって、それがどこにあるのか模索していくような形式となっている。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
最後に明確な希望がなく後味の悪さが残ってしまうため、作品として一般的な評価は下がってしまうかもしれないが、全体として非常によい作品だと思った。とくに卑下するでも上から目線になるわけでもなく、淡々と日常をおくる主人公の立ち位置に好感を覚えた。