純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 97/1000 吉村萬壱『クチュクチュバーン』

どうも、こんにちは。

 

今回は芥川賞作家でもある吉村萬壱文学界新人賞を受賞した『クチュクチュバーン』です。

 

1.ざっくりあらすじ

人間が周囲のものに同化したり身体が収縮するなどして、通常考えられているような意味を失った世界の話。人間たちは変化の恐怖におびえながら暮らしているが、登場人物たちもつぎつぎに変化していき、唯一規則を保っていた地域も崩壊し、最終的にシマウマと同化したシマウマ男が、同化し集合体と化した人間の群れを見ることに徹する。シマウマ男は集合体に取りこまれ、爆発しあたらしい世界へと移行してからも前世の記憶を保持していて、自殺をくりかえす。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

三人称のかたちをとった短文よりのリズミカルな文章で、あたらしい世界の姿を客観的にとらえていく。リアリティのあるグロテスクな描写がおおい。

(2)構成★★☆

現状→崩壊→集合という順序で世界があらたなフェーズにはいっていく。おおまかな構成はあるが、キャラクターたちがつぎつぎと崩壊していくことで物語となることを拒否しているようにみえる。

(3)論理★★☆

舞台設定からきちんと世界の崩壊と新世界の状況を描き出しているので、とくに引っかかるところはなかった。おおきな飛躍はあるが、細かな論理はきちんとこなしている。

(4)テーマ★★★

個人の意味の深化がすすむ社会へのアンチテーゼを提出したように思えた。荒唐無稽な世界で、意味の無意味さをあらわし、宇宙的な視点でとらえなおしている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

世界観はおおきく飛躍しているが、全体で意味の不明瞭な部分はすくないので、おもしろく読めた。シュールな世界観で既存文学にないあたらしい地点がひらかれている。一方、発想やセリフにただようマンガ的な雰囲気は拭えず、個人的な好みとしてはもうすこし文学風に味付けしてほしかった。