純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 96/1000 埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』

どうも、こんにちは。

 

今回は死ぬまで書きつづけた未完の大作『死霊』で有名な埴谷雄高が、谷崎潤一郎賞を受賞した作品『闇のなかの黒い馬』です。

 

1.ざっくりあらすじ

作者自身とおもわれる主人公は、不眠症をわずらっており、夢を中心としてその周辺でおきる夜の世界の事象を通して、昼の世界におきる事象をながめようとした観念的であり実験小説的な短編連作の作品。

 

2.作品解剖

(1)文体

はじめは大江健三郎などに近い句点がすくなく、どこで区切られているのかわかりにくい文章だと思ったが、特異な単語選びから作品に通底する「闇」や「夜」の気配が描かれている。身体的な描写においても、ていねいに描かれており、とくに最後におさめられている『神の白い顔』では、水中へ垂直にしずむ主人公が、時間を止められたひとつの点のように浮かびあがってくる。

(2)構成

テーマのおなじ連作形式により、さまざまな角度からひとつのテーマを深掘りしていくという手法。同様の手法をとった作品はいくつか知っているが、ここまで観念に徹底して仕上げたものは初めてみた。

(3)論理

ほぼ主人公は布団のまわりにいるにもかかわらず、観念によって宇宙まで飛び立っていく。ほとんどの舞台が論理を超越した「夢のなか」や「意識のもうろうとした時間」であり、この作品のなかの「昼の世界」である現実の論理の対象とはならない。その前提がありつつも、夜の世界を作者が詳細に分析していくので、論理はより強固なもののように映る。

(4)テーマ

作者はあとがきで「存在」と書いているが、それがなにを指しているのかよくわからなかった。わたしには現実を虚実的な夢の世界からながめることによる「世界のとらえなおし」というように思えた。

 

3.感想

小説として面白く読むことは難しいと思う。舞台設定が入り組んでいるにも関わらず、現代小説には見られないような難解な文体が原因としてある。テーマを通底して深掘りしつづけた作者の姿勢と、あたらしい世界のとらえかたが評価されているのだと思った。