純文学1000本ノック 73/1000 金子薫『アルタッドに捧ぐ』
どうも、こんにちは。
今回は金子薫の『アルタッドに捧ぐ』です。作者は本作で文藝賞を受賞しデビューしています。
1.ざっくりあらすじ
大学院試験に落ちた主人公の本間は、死んだ祖父の家に住みながら小説を書いていた。その途中で、小説の主人公であるモイパラシアが死んだ。その死は本間が考えていたストーリーではなく、原稿用紙の上に現れたモイパラシアの左腕とともに本間は原稿用紙を土に埋める。それから小説世界に出ていたトカゲのアルタッドやサボテンのアロポポルが現実に現れ、本間はその世話をしながら生活する。純粋に小説を書きたい本間は自分の俗物的な欲に辟易としながらも、最後に昔の恋人と点描を描くことで純粋な時間を感じることができる。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
三人称的一人称で描かれた文体はわかりやすく、練られていてうまい。しかし、修飾は多い気がする。
(2)構成★★☆
小説世界の登場人物の死から、現実に現れた他の小説世界の生き物との交流、現実生活、書くことへの哲学的な考察など、面白く読める構成だが、冒頭のインパクト強く尻すぼみな感じもする。
(3)論理★★☆
小説世界の生き物が現実世界に現れるというルールを除き、論理的に特に不明な点はない。
(4)テーマ★★☆
「純粋な行為」をメインテーマにしていると思った。もちろん作中の本間にとってそれは「小説を書くこと」である。ほかに「生死」についても考察されていたが、そこまで深くは作品に調和しきれていないイメージである。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
冒頭のフックも効いていて、作品に入り込みやすく、文体も読みやすい。作者の力は感じたが、テーマの掘り下げが足りないようにも感じた。