純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 87/1000 吉行淳之介『砂の上の植物群』

どうも、こんにちは。

 

今回は吉行淳之介の代表作の一つ『砂の上の植物群』です。デビューから十年ほど経ったあとの作品です。

 

1.ざっくりあらすじ

伊木一郎という化粧品のセールスマンをする男が主人公。彼は三十四歳で死んだ父の呪縛に捉われている気がしていたが、友人の葬式に行ってからそのことを忘れる。そんなおり、ある女子高生と関係を持ち、その姉をひどい目にあわせてほしいと依頼を受ける。姉である京子の働くバーで声をかけ関係を持つが、のめり込んでいってしまう。そんななか、父と旧知の理容師に教えられ、京子という腹違いの妹がいることを知る。主人公はふたたび父の影を感じる。しかし、理容師から腹違いの妹は既に死んだことを知らされる。主人公は生きている京子とともに性の堕落を深めていく。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

三人称で視点はパフォーマティブな語り手である作者と主人公の伊木に絞られている。相変わらず鋭く心情が描かれているが、初期作には片鱗しか見られなかった描写がふんだんに使われて、主人公の心情を投影するようになっている。作者の美的感性による言葉の取捨選択は湿度の高く性的なにおいの残る世界を構築している。

(2)構成★★☆

おおむね時系列に沿う形で、作者による作品のテーマ補足のような解説が入ってくる。現代の日本ではあまり見かけない形式。章分けをしていることと、一定の長さがあるため大きな違和感は感じない。

(3)論理★★☆

特に矛盾点はない。

(4)テーマ★★☆

性的に奔放だった父を背景の構造として、子である主人公と性に溺れる京子の入り組んだ身体と心の交わりを描いたように思えた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

性における肉体と精神の部分を深く掘り下げ、それによって人間の存在が浮かび上がるようにつくられた作品に思えた。初期作品と比較し描写の比重が増したため、テーマは一読しただけでは浮かび上がってこない気がした。しかし、純文学においてそれは作品の質が下がったわけではなくむしろ向上したことを意味しているのだろう。