純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 70/1000 町屋良平『青が破れる』

どうも、こんにちは。

 

今回は町屋良平の『青が破れる』です。2016年文藝賞を受賞した本作。作者はその後、『1R1分34秒』で芥川賞を受賞しています。

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1.ざっくりあらすじ

フリーターをしながらプロボクサーを目指す秋吉。友人のハルオから誘われ、その恋人の難病にかかっているとう子を見舞いに行く。秋吉は人の気持ちとの向き合い方がよくわからず、プロボクサーを目指す覚悟もあいまいになったり、人妻である夏澄との恋もうまくいかなかったりして、ぼんやり過ごしている。そのうち、とう子と夏澄とハルオが死ぬ。結局秋吉は自分の肉体を信じて動き出す。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

冒頭はハルオの「あいつ、ながくないらしいんよ」というセリフから始まる。その後も現代風の会話はテンポよくつづいていく。読み始めてすぐは文体が軽すぎるかな、と思った。しかし、通常は漢字で書く部分をひらがなやカタカナに変換したような独特の言語感覚を用いた文体に徐々に引き込まれていく。身体感覚を用いた絶妙な表現も多く、よく考えられた文体なのだとわかる。

(2)構成★☆☆

冒頭での終わりの匂わせから、日常、転機、大切な人たちの死、など構成があまり練られた印象はない。前半から中盤にかけて秋吉の心情変化があるが書き込みの密度が少ない為やや性急な感じがする。

(3)論理★★☆

ハルオや夏澄の死など、やや突飛に思われる部分は多い。しかし、雲のうえに乗ったような文体によって、そこまで不自然には感じない。

(4)テーマ★★☆

「自分と他者の感情」の難しさがよく表現されていたと思う。また随所で哲学的な考察が導入されているが、作品の持つ軽さとその重々しさのギャップも面白い。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

非常に面白い文体の作品だと思った。しかし、一方で軽すぎる携帯小説のような感じが抜けきらないため個人的には馴染めきれなかった。