純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 72/1000 中上健次『枯木灘』

どうも、こんにちは。

 

今回は中上健次の『枯木灘』です。

 

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1.ざっくりあらすじ

種違いの四人兄妹の末っ子で幼かった秋幸は母フサに連れられ、地元で建設業を営んでいる竹原繁蔵の家に引き取られた。秋幸は二十六歳になり父龍造そっくりの巨体に成長し繁蔵の会社で現場監督として働いた。種違いの姉美恵の娘である十六歳の美智子が妊娠し帰省してきたことで、秋幸は自分を取り巻く複雑な血のつながりを考え始める。結局秋幸は過去に親に捨てられたことを怨み、自分と母を殺そうとした種違いの兄郁男のように、腹違いの弟秀雄を殺してしまう。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

はじめは登場人物の見分けがつかず、非常に読みにくいと思った。百ページほど進むとこの世界が徐々につかめてきた。三人称でメインは秋幸視点だが、その視点は波のように移り変わる。土方仕事をする秋幸がからっぽのがらんどうになり、山の木や、葉、土、光というものと一体になる描写が作中に何度も出てくる。それが秋幸の心情を見事に描き出している。

(2)構成★★☆

土方仕事に満足を感じている秋幸が、過去のことから実の父親や種違いの兄、腹違いの弟などに感じた複雑な感情に飲み込まれていく。描かれる世界は非情で生臭い臭いを放っている。それが生命の美しさと汚らしさをあらわしている気がする。そして、最後には悲劇が待ち受けている。

(3)論理★★★

これだけ長く、登場人物も複雑に入り組んでいるが論理的に不明な点は特にない。

(4)テーマ★★★

「出生とアイデンティティ」や「生と死」、「性」など多くの人間に普遍的なテーマが、海と山に四方を囲まれた田舎町である枯木灘において、ありありと描き出されている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★★

はじめの百ページほどは同じ場所を繰り返し読まないと理解できないほど、わかりにくい文章だと思った。しかし、この世界に一たび足を踏み入れると、自分の現実感覚があいまいになってしまうほど、没入させられる作品だった。