純文学1000本ノック 63/1000 上田岳弘『太陽』
どうも、こんにちは。
今回は上田岳弘の『太陽』です。2013年新潮新人賞を受賞した本作。その後、作者は『ニムロッド』で芥川賞を受賞しています。
1.ざっくりあらすじ
現代と同じ人類の「第一形態」にある人々の群像劇が中心となっている。その中で、不老不死が実現されなにもかもが一般化した人類の「第二形態」を終わらせる存在となった田山ミシェルの祖先たちの運命的な出会いがある。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟厳密に言えば、太陽は燃えているわけではない”からはじまる本作。その後、太陽の成り立ちが語られ、春日晴臣という最初の登場人物の話に入っていく。視点人物は定まることなく、春日へサービスをした風俗嬢である高橋塔子へと移行する。この時点で異様な感覚のある小説だとわかる。その後も、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を彷彿とさせる視点人物の移動はつづいていく。
(2)描写★★☆
神視点の描写が最後までつづく。ゆえに、一人に入り込んだ描写は少ない。
(3)内面★★☆
神視点の語りで内面が描かれている。それぞれの人物の芯に迫った内面描写が余計なもののない言葉で描かれている。
(4)文体★★★
文体としてはガルシア=マルケスの『百年の孤独』に似ている。しかし、より硬く論理的な雰囲気が出ている。作者がやりたかったことは『百年の孤独』の拡大版ではないだろうか。そのため、同じように人類を超越した思考をもった子孫が出てくる。
(5)構成★★☆
太陽の成り立ちの語りからはじまり、太陽の終わりで終わる。過去現在未来が行ったり来たりするが、不思議と理解できるようになっている。読後、わたしは身体を置いて、別次元に旅をしたような感覚におそわれた。
(6)論理★★☆
大きな論理的矛盾点はない。というより、はなからグジャラート指数など、いかにもそれらしい言葉によって世界が形作られている。そのため、あらゆる事柄は神視点により、正当化されていく。
(7)テーマ★★☆
他と個の境界線、個人の考え、そういったものを突き詰めているように思った。非常に哲学的あるいは、思想的な内容も多く出てくるが、登場人物たちの個として描かれている。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
小説には、こんな表現も可能なのか、とあらためて考えさせられた作品だった。すべての事象、感情、思想、哲学にたいして達観した神の視点は新鮮だった。