純文学1000本ノック 74/1000 沼田真佑『影裏』
どうも、こんにちは。
今回は沼田真佑の『影裏』です。作者は本作で文学界新人賞を受賞しデビューしています。その後、本作で芥川賞を受賞しています。
1.ざっくりあらすじ
本社から岩手県にある子会社へ異動となった今野は、地元の社員たちと深くなじむことができず、そのなかで唯一都会風の考え方をする同年代の日浅と釣り仲間になった。彼らはしょっちゅう遊ぶが、日浅の転職を機に会うことが減ってしまう。日浅は似合わない営業マン風の恰好で今野の前に現れる。また交流がはじまるが、日浅はノルマの厳しさから今野に商品を勧める。今野は購入したが、その後仲たがいしまた音信が減っていく。そこに、東日本大震災が起き、今野は日浅の死を聞き知る。
2.作品解剖
(1)文体★★★
わたしの一人称で進む作品。常用されない語句も多用し、自分の文体として形成することに成功していると思う。とくに岩手の山や川を描く描写は圧巻である。
(2)構成★☆☆
作品を読んでいて一番思ったのは時間軸のわかりにくさだった。「今」がいつなのか、的確な場所で明示されていない気がする。構成自体は良いのかもしれないが、時間軸のわかりにくさでわたしは混乱してしまった。
(3)論理★★☆
仕事の書き込みも豊富で、特に不明な点はない。
(4)テーマ★★☆
日浅という人間を軸に、主人公である今野の、孤独や世界観を表現しているのだと思ったが、一読しただけでは明確なテーマが伝わってこなかった。女性に性転換した元恋人の話などは、中途半端で作品がぶれると思った。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
文体はレベルが高く、作者のなかで完成されていると思った。一方で、テーマがわかりにくく、一読して理解できる読者はほとんどいないのではないかと思われる。また、時間軸のわかりにくさもそれに拍車をかけてしまっているので、意図しているものだとしても、もう少し明確にすべきだと思う。