純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 71/1000 大江健三郎『見るまえに跳べ』

どうも、こんにちは。

 

今回は大江健三郎の『見るまえに跳べ』です。日本人二人目のノーベル文学賞作家である作者の初期短編集です。

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1.ざっくりあらすじ

大学生の主人公は、身体の内側にも外側にもにがい静寂を持ち、政治にも生活にも無関心で生活している。主人公は娼婦を生業とする良重の下宿に二年同棲し、生活費をもらって大学に通っている。あるとき、良重の情人である記者のガブリエルから日本人のことを、見るだけで跳べないやつらだ、と馬鹿にされ、怒ってガブリエルを殴打する。その後、良重との変わらない生活が続くが、浪人生の裕子の家庭教師を務めるうちに二人は身体の関係を持ち、裕子に子どもができる。主人公は子どもを育て、裕子と愛のある生活を送ることを決心し、良重と別れアルバイトをはじめる。しかし、裕子は結核もちで母胎保護のため堕胎することになる。主人公は、結局自分こそが跳ぶことのできないちっぽけな日本人だと自覚する。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

ぼくの一人称による比喩表現を多用した文体である。通常の一人称と違いぼくの視点はどこか冷めていて遠くにある。意識的かは不明だがその距離が作品の後半にかけて徐々に近づいて来る。比喩表現は陳腐なものもあるが、肉体表現を使った味のある表現が多い。文体中に含まれる、描写、語り、説明のバランスが極めて整っている。

(2)構成★★☆

冒頭で、無気力な主人公からはじまり、中盤で無気力さから抜け出すが、終わりで結局自分にはできないと悟る。時間軸にはしっかりそっている。シンプルだがわかりやすい構成。

(3)論理★★☆

強いてあげるならば、紛争地域に簡単に日本人の大学生がいけるのか、娼婦のヒモのような関係を二年間もどのように構築したのかは気になったが、論理的に欠陥があるというほどではない。

(4)テーマ★★★

自己欺瞞」という普遍的なものに加え、「戦後の日本の精神性」や「無気力な若者」という当時の日本を象徴するテーマを見事に作品へ落とし込んでいる。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★★

テーマと詩情をどちらも非常に高い点で融合させた、真の文学の一つだと思う。私自身、大江健三郎は初読だったが、自分のことを読書家だと思っていたことを深く恥じている。