純文学1000本ノック 113/1000 年森瑛「N/A」
どうも、こんにちは。
久しぶりに開きました。その間本を読んでいなかったわけではないですが、ファンタジーものだったりしたので、今回です。
今回は文学界新人賞を受賞した年森瑛の『N/A』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公のまどかは、初潮を経験してから生理が嫌でたまらず、痩せすぎの場合こないこともあると知り、食事量を極端に減らした。高校生になってからもそれは変わらず、まどかという一個人として、恋愛などでも世間の流れにそわずに生活しようとするが、なかなかうまくいかないこともおおい。自分が世間の流れのなかにいることを知り、自己嫌悪しながらも、ふたたび訪れた生理のとき別れた女性に助けてもらい、かけがえのない他人の可能性をふたたび感じる。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
三人称的一人称形式である。固有名詞がおおく、作品のリアリティと現代性をあげる効果をだしている。作品全体の雰囲気はそれとリアルな高校生という設定もありライトになっている。ところどころの物事への考察がよく吟味された言葉で非常にうまい。
(2)構成★★☆
トラウマ的な過去からはじまり、要所で過去を挟みながら進んでいく。オーソドックスな形式だが回想への違和感はまったくない。また、主人公がお手本を求める世間にたいする嫌悪感を持ちつづけ、最後にその感覚が自己嫌悪と気づきに変わる展開は見事だった。
(3)論理★★☆
とくに引っかかるところはなかった。友達や恋人にLGBTだと勘違いされてしまう場面では、ちゃんと話せばいいのに、とツッコミをいれたくなったが、主人公の性格とラストでの気づきから溜飲が下がった。
(4)テーマ★★★
LGBTやコロナ、女性の性など現代的なモチーフを散りばめながら「世間の流れとそれへの個人としての違和感」を徹底して見つめる眼差しがあった。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
終わりよければすべてよし、というがこの作品を読み終わるとその言葉を思い浮かべた。最初は軽い雰囲気と自己を反省しない主人公の傲慢さが目についたが、軽さは作品のもつ味わいになり主人公は気づきを得るという尻上がりの展開で幕を閉じる。見出しているテーマ性もよく、目立つものに手をつけたかに見えたモチーフもうまく消化しきれているように思えた。