純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 119/1000 奥泉光『石の来歴』

こんにちは。

今回は1994年に芥川賞を受賞した奥泉光の『石の来歴』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公の真名瀬は第二次世界大戦に従軍し、帰国してからレイテ島の洞窟での兵隊との話を思い出し、石集めをはじめた。書店経営と石集めの傍ら、子供が二人生まれ長男は優秀で真名瀬と共に石集めをするようになる。しかし、長男が一人で洞窟に採石に行き、刺殺されてしまう。家庭は崩壊し、次男は叔母夫婦に育てられる。次男はサッカーをしていたが、やがて学生運動のなかで死ぬ。真名瀬は死ぬ前の次男から長男の死んだ日のことを聞き、洞窟に向かい、過去のトラウマと決別する。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

主人公に近い三人称で、冗長さと味わいのある語句を散りばめた文体。語りが主であり、描写が少ないので、描写を主にした長大な作品にもなりうる。ただし、父と子の二代に渡る物語の性質上、話の筋を曲げないようにするには語りが主になるのは仕方がないのかもしれない。

(2)構成★★★

一流のミステリー作品と比しても通用しそうなほど伏線の効力を有効に使っている。

(3)論理★★☆

語りはリアリティが欠如しがちだが、少ない描写の部分で十分な生々しさを作品全体に与えている。

(4)テーマ★★☆

石を媒介として、人間の存在や死生観について奥深く掘り下げている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

重々しさのある文体だが、語り口はあくまでわかりやすくすらすらと読める。30年近く前の作ではあるが、トラウマや家庭環境による子どもの生育など、優れた観察力が下地となって深みのある作品となっている。