純文学1000本ノック 62/1000 高尾長良『肉骨茶』
どうも、こんにちは。
今回は高尾長良の『肉骨茶』です。2012年新潮新人賞を史上最年少受賞し、芥川賞候補にもなった作品です。
1.ざっくりあらすじ
拒食症の赤猪子が母と訪れたシンガポール・マレーシアツアー中に食事から逃れるため、以前自分の高校に留学にきていたゾーイーを頼り、抜け出す。シンガポール人のゾーイーは兄の別荘に赤猪子と別で日本から旅行にきた紘一とともに過ごそうとする。赤猪子はゾーイーたちに気付かれないようにカロリー消費のための運動をしたり食事をしないようにしたりするが、気付かれて次第に追い詰められていく。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟シンガポールからマレーシアへの入国審査の列の手前で、赤猪子は日本人ツアー客四十人を離れ便所に歩み寄った。”からはじまる本作。その後、赤猪子の異常な細さや食事を便器に捨てることが描かれていく。全編を通して独特な文体が貫かれているが、導入は情報が整理されていてわかりやすい。
(2)描写★★☆
余計な部分は極力省かれた意味のある描写がつづいている。
(3)内面★★☆
赤猪子の強迫観念は丁寧に繰り返し描かれるが、その原因についてはすくない気がした。
(4)文体★★★
赤猪子の一人称的視点の三人称形式。おどろおどろしい雰囲気の漢字が多用されている。動作の場面を描く際、視点のうまさや描き方の独特さがある。また、セリフ部分の知的さと比率も非常にいいものがあると思った。
(5)構成★★☆
旅行、逃避行、海沿いの別荘という非日常空間のなかで、現在軸を一日に限定し、必要に応じて過去を描いていくスタイルはうまくはまっていた。
(6)論理★★☆
大きな論理的矛盾点はないが、紘一、ゾーイー、アブドゥルの唐突な犯罪的行為が独特な世界観を作ると同時に違和感を感じる人もいるのかもしれない。
(7)テーマ★★☆
拒食症に異常なまでに執着した人間が描かれている。その根底に流れるテーマがなにかあるのか、あるとすればなんなのか、知識不足か私には捉えられなかった。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
若くして非常に能力のある作品であると同時に、あることに固執した人間の見せる異常な熱量が見事に描き切られている。実力と根性のある書き手で今後も期待できる。一方で、紘一、ゾーイー、アブドゥルという魅力的な変わり者たちの内情は見えてこない部分がある。個人的に「なにかに執着した人間」は今後も見ていきたいモチーフである。