純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 79/1000 遠野遥『破局』

どうも、こんにちは。

 

今回は遠野遥の『破局』です。2020年芥川賞を受賞した本作。

 

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1.ざっくりあらすじ

高校時代ラグビーをしていた主人公の陽介は、母校のコーチをしながら大学入学後も身体を鍛え続けている。彼は性欲に悩まされつつも、女性に優しくしろ、という短い間しか共に住まなかった父からの教えを守り、彼女を大切にしようとしている。しかし、灯という女性との出会いから、彼女を裏切り乗り換えてしまう。その後、ラグビーでも教え子から毛嫌いされる存在だということに気づき、彼女となった灯の開花した性欲と自分の浮気を引き金に灯の存在も失ってしまう。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

淡々と描かれる肉体感覚が特徴的である。他の描写も丁寧で、読者は流れるように物語を先に進めていける。自らの思考をみる客観的な目線も物語に独特なリズムを作り出している。潔癖なまで自らに正直であることに比重をおいたような文体である。他者が長いセリフによって自己開示をすることも大きな特徴になっている。

(2)構成★★☆

他者へたいして主観的な批評を加えていた主人公は、やがて自らがジャッジされる破局へと向かっていく。性犯罪を犯す公務員のニュース、どこか怪しい大きい大人と共にいる小さな女の子から主人公に向けられる視線など伏線は随所にちりばめられているように思う。そのすべてが最終的にうまく機能しきったのかは私にわからなかった。

(3)論理★★☆

論理的に特に不明な点はない。

(4)テーマ★★☆

文体に現れている「自分というものを究極まで客観的に見ること」これ自体がテーマであるように思えた。非常に深みを感じさせるものがあるが、一読しただけではそれを言語化することができなかった。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

主人公の異常にも思える他者への意識や性への固執から、読んでいて不快になる人もいるかもしれないが、私にはむしろリアルに「人間」を描き切った作品のように思えた。それを支える文体と作者の内に潜むテーマを感じた。