純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 56/1000 石井遊佳『百年泥』

 

どうも、こんにちは。

 

今回は石井遊佳の『百年泥』2017年新潮新人賞を受賞し、2018年芥川賞を受賞した作品です。

 

f:id:yumeyume16:20201015162433j:plain

 

1.ざっくりあらすじ

インドのチェンマイに住み、IT企業で日本語を教える主人公は、百年に一度の洪水に遭う。洪水が収まりはじめてから、会社へ向かうが、途中の橋の上で大量の泥が積まれてるのを見つける。その泥を片付ける作業をしている美青年のデーヴァラージは、主人公の生徒だった。百年の堆積から解き放たれた泥からは、誰かの思い出の人や品が出てくる。主人公もそのなかから、元旦那との離婚の思い出の品や母との思い出の品が溢れ出てくる。大阪万博のコインをみつけたデーヴァラージから、彼の物語が溢れ出てきて主人公に伝わる。

 

2.作品解剖

(1)導入★★☆

‟チェンナイ生活三か月半にして”からはじまる本作。まともな出だしだと思って読み進めると、独特の言語感覚に翻弄されていった。

(2)描写★★☆

インドの現実と非現実がない交ぜに描かれているが、基本的に丁寧に描かれている。見慣れない言葉や見たことはあるが別の意味の言葉が利用されている。日本語教師だけあってか、言葉の使い方で知らないものが出てきて調べてみても、どうも正しい用法で使われている。

(3)内面★★☆

主人公「私」の、卑屈なところもあるがどこかあっけらかんとした内面が最後まで描かれる。積極性の欠如、異性からもてる、美男子好き、深くは考えすぎない、という人物像を肯定も否定することもないのはまだしも、意識的に顧みることすらないのは個人的に物足りないと思う。

(4)文体★★★

斬新で独創的、一方で主述の関係が分かりにくい部分があるのは事実で、一般的な読者には受け入れられるのは難しいかもしれない。

(5)構成★★☆

洪水後、はじめて外に出た日が主軸で、泥のなかの物に関連して、あるいは、主人公の記憶をたどる形で過去にさかのぼる。個人的に結末はあまり関心できない。

(6)論理★★☆

大きな論理的矛盾点はない。男の借金から消極的にインドへ行くことになった理由については、いくら流される主人公でもあり得るだろうか、と思う。容姿端麗な主人公ということだが、異性からの好意と主人公の人物像については乖離がある気がする。

(7)テーマ★★☆

無口な人間、あるいは普段は本心を見せない人間、について百年泥というものを介在させることで紐解いていったような本作。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

文体としての大きな力と魅力を持ちつつ、どこか活かしきれていないように感じた。消極的で流されやすいが、頑固な部分もある主人公に、自分があまり共感できなかったからか、あるいは他のなにかか。