純文学1000本ノック 57/1000 乗代雄介『十七八より』
どうも、こんにちは。
今回は乗代雄介の『十七八より』2015年群像新人文学賞を受賞した作品です。
1.ざっくりあらすじ
「私」が亡くなった叔母のことを考えて、十七八のころの自分である「少女」を回想していく。少女は保健の授業で性的な発言をしたり、家では会話を面白い方向に進ませようとめちゃくちゃな嘘をついたりする。そして、叔母の前だけではなんらかの共通認識により、本心をさらけだす。放課後個人講習してくれる国語教師との関係を噂され、今の「私」からは恥ずかしいような言動や行動をする。
本作は筋があるようでない、ないようである作品である。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟過去を振り返る時、自分のことを「あの少女」と呼ぶことになる”からはじまる本作。それは昔の叔母の予言通りである。読者は最初から不可思議な文体との格闘がはじまる。
(2)描写★★☆
独特な感覚の言葉を多用して、描写をすすめる。ただ、描写自体は丁寧で非常にレベルが高い。
(3)内面★★☆
「少女」の誰にも理解されがたいと思っている特別な感覚が、ふんだんに描かれている。が、経過や変化はこの作品においては重要視されていない。
(4)文体★★★
作者の独特な感性から織りなされる文体は、なるほど、と感心させられるものもあれば、意味がまったく分からず二度見三度見してしまうものもある。そうして、読者がこの小説と向き合うことこそがこの小説の醍醐味かもしれない。
(5)構成★★☆
叔母が死んだ現在の「私」。叔母が働く祖父の眼科に頻繁に訪れていた女子高生のころの「少女」。大きく分けてこの二点から形成されている。メインは「少女」の思い出だが、構成はあってないようなものである。
(6)論理★★☆
大きな論理的矛盾点はない。保健の授業での「少女」の発言などは現実味に欠けているが、「少女」の特異性を物語るためのエピソードなのだろう。
(7)テーマ★★☆
自分が誰にも理解されないと思っている「少女」の思春期の行動や言動が、現在の「私」から客観視されるような話。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
普段のストーリーを順を追って読んでいく、ということを拒否したかのような作品である。クセのある文体で読者を引き込みむことも追い出すこともするだろう。結局核心的な部分に触れられずに終わる本作。十分魅力的だが、消化不良をおこす読者は多数だろう。