純文学1000本ノック 61/1000 中村文則『銃』
どうも、こんにちは。
今回は中村文則の『銃』です。2002年新潮新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなった本作。作者はその後芥川賞を受賞し活躍しています。
1.ざっくりあらすじ
ある日、偶然拳銃を拾ったニヒルな大学生。拳銃の美しさに魅了され、翻弄されていくさまを徹底的に追いかけた作品。
2.作品解剖
(1)導入★★☆
‟昨日、私は拳銃を拾った。”からはじまる本作。その後、拳銃の美しさが語られて拾った経緯に物語が入っていく。印象的で目を引くが、「私」という一人称が海外文学の翻訳のようにたびたび登場し、最初は困惑した。
(2)描写★★☆
詩的な部分はすくないが主人公の内面に沿った描写が最後まで丁寧に描き込まれている。
(3)内面★★★
描写と直接的な内面描写により、主人公の変化していく心境が見事に描かれている。
(4)文体★★☆
一人称「私」形式。大学生という印象のうすい落ち着いた、どこか欠落した部分のある人物像が淡々とした表現で描き進められている。うまいが、人称多く、表現へのこだわりは低いかもしれない。
(5)構成★★☆
拳銃を拾った場面から、時間軸に沿って物語が進んでいく。主人公の内面の変化に焦点をあてた小説なので構成としては非常にわかりやすい。
(6)論理★★★
大きな論理的矛盾点はない。普通の大学生が拳銃によって猫を撃つところから、人を撃とうとするところまで、難しい部分は多い設定だと思うが、主人公の内面変化を緻密に描くことで、矛盾なく物語が進行していく。
(7)テーマ★★☆
現実に非日常的な出来事が起きた場合人はどうなってしまうのか、という問いを丁寧に追った作品だと思う。物語の下地には主人公の生い立ちから自分を殺し周囲へ合わせることや、そこからの解放というものも入っている。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
論理的で緻密な内面描写がされた作品である。中村文則の著作は『掏摸』だけ読んだことがあったが、本作の方が数段濃密に描くことに成功していると思う。