純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 125/1000 川上弘美『蛇を踏む』

こんにちは。

今回は1996年に芥川賞を受賞した川上弘美の『蛇を踏む』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公のサナダヒワ子は、数珠屋のカナカナ堂への出勤途中に蛇を踏んでしまい、その蛇が人間の女の姿に変わり家に居着くようになる。 女は蛇の世界へ来るように誘ってきて、ヒワ子は迷う。徐々に周りにも人間の姿をした蛇と生活している人たちがいることが判明していき、ヒワ子は蛇の女に迫られていく。最後に迫られ、乱闘の末、蛇の世界はない、と言うが、蛇の女は笑っている。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

一人称で装飾の多くない文体。ただ、突然の目を引く一文の使い方や、肉体的感覚のたしかな描写力が光り、全体を緩急のある作品にしている。

(2)構成★★☆

蛇を踏んだことから、一貫して蛇との奇妙な生活に入っていく。序盤で大方の必要な説明は終わらせて最後まで蛇との関わりである。

(3)論理★★☆

最初から最後までリアリズムから飛躍した世界のため、特に違和感が生じることはない。また、蛇を除けば日常がそのまま残っている。

(4)テーマ★★☆

象徴性が高い作品なので、テーマと言われると難しいように思うが、主人公から「生きることのめんどくささ」のようなものは常々感じた。それが蛇の世界=空想世界、あるいは新たな価値観の世界へ旅立つことを受動的に受け入れようとする理由に思える。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

一見して奇妙な作品なのだが、文体は味わい深く、提示された世界がしばらく頭に残りそうである。最近読んだものだと、今村夏子の「むらさきのスカートの女」などはよく似た雰囲気を持っている。