純文学1000本ノック 106/1000 春見朔子『そういう生き物』
どうも、こんにちは。
今回はすばる文学賞を受賞した春見朔子の『そういう生き物』です。
1.ざっくりあらすじ
高校のころ同級生だった薬剤師の千景とまゆ子はひさしぶりに会い、千景の誘いで一緒に住みはじめた。千景は仕事をしながら、大学の恩師の先生にたまに会いに行く。まゆ子は叔母のスナックでアルバイトしている。ある日、央佑という先生の孫が家にきて、カタツムリを飼いはじめる。まゆ子は女の姿をしているが、性別的には男で、高校時代に千景と付き合っていた。二人はいま恋仲ではないし、理解し合わないところはあるが、それなりに生活していく。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
三人称的一人称で、千景とまゆ子両方の視点から交互に描かれていく。文章のつながりのなかで感情や雰囲気を描きだすのはうまいが、全体的にセリフ多く、あまり描写はない。
(2)構成★★☆
全体としてはそれほど問題だとは思わなかったが、読みはじめから短い文量で視点が交互に行きかうため、読者の入り込みは遮断されてしまう。千景とまゆ子の描き分けも乏しく、はじめはどちらがどちらかあいまいなまま読み進めることになった。
(3)論理★★☆
とくべつおおきな飛躍もなく、淡々としているので論理的に不明な点もなかった。
(4)テーマ★★☆
性とはなにか、というところがきちんと一貫して求められている気がした。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
全体としてはセリフの多いライトな作品という印象だが、テーマの取りだし方や表現が難しい感情や関係性を描く感覚に非常に優れている。人称切り替えはお互いのすれ違いを描くのに必要だったとは言え、もうすこしまとめる必要があったと思う。