純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 115/1000 安部公房『他人の顔』

どうも、こんにちは。

 

今回は戦後作家として絶大な人気を誇る安部公房の『他人の顔』です。有名な『砂の女』しか読んだことがなかったので、私にとって二作目の安部公房です。

 

1.ざっくりあらすじ

勤めている研究所の実験中に爆発を起こして顔一面に深いケロイドを負ってしまった主人公。包帯を顔に巻いて生活するが、他者と正常な交流ができなくなったことを思い悩み、リアルな仮面を作りはじめる。できた仮面は以前の自分とは違う顔にして、妻を誘惑することで、他者との交流を再開しようとする。それまでの経緯を長大な手紙にしたため、妻に告白するが、妻は家に戻って来なくなり、再び仮面を被り、今度は危険な行動に出ようとする。

 

2.作品解剖

 

(1)文体

妻への告白のノートという形式をとり、物語は主人公の語りによって進行する。主人公の意識を投影させた思い込みの激しい冗長な文体。安部公房はやはり描写に良さが際立つ作家だと思うので、やや不満が残った。

(2)構成

文庫本に収録された大江の解説によれば、発表当時、構成への批判が多かったらしい。解剖すると、現在(仮面の殺害後)の主人公→妻に告白のノートを書くそれ以前の主人公(ほとんどがこの部分である)→再び現在の主人公→妻からの手紙→現在の主人公という構成になっている。たしかに告白のノートが現在の主人公やノートを見直しする主人公の追記まであり、二重三重に入り組んでいる。そしてノートが長大すぎて読者はより混乱を極める。書き出しの殺害の匂わせの気合いの入れぶりから見るに、これは構成の失敗と言えるだろう。

(3)論理

とくに気になる点はない。人間を捉える力に非常に長けているので、妻の謎めいた雰囲気もすぐに納得させられてしまう。

(4)テーマ

個人、あるいは人間は、何をもってそこに在る、と考えられるのか?という哲学的な問題を、顔という具体的な物の喪失によって描き出そうとしているように思えた。試みはかなりうまくいっているような気がする。

 

3.感想

カフカ的な不条理の世界を描きだす安部公房の世界観、設定やテーマにおいてそれが存分に発揮されながら、やはりいまいち作品全体として良く思えなかった。卓越した描写力を活かし、構成を修正すれば、この作品も世界に羽ばたいていく作品だったように思える。