純文学1000本ノック 126/1000 ロブ・グリエ『消しゴム』
こんにちは。
今回はフランス、ヌーヴォーロマンの代表的作家ロブ・グリエの『消しゴム』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公の特別捜査官ヴァラスは、日本でいう公安のような場所に異動になり、最初の仕事として、政府転覆を目論む巨大組織の連続殺人事件で8人目の犠牲者が出て、地方の街へ捜査に行く。しかし、暗殺人は失敗しており、目標の学者は死んでいなかった。ヴァラスはそのことを知らないまま、難航する捜査のなかで、事件現場にまた犯人らしき人物が戻ってくるという情報を聞きつける。現場で待っていたヴァラスは書類を取りに来た学者を誤って銃殺してしまう。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
三人称でそれぞれの登場人物が物語とあまり関係のない回想なども織り交ぜつつ進行していく。説明はほぼなく、語りと情景や心理、ときたまある濃密な描写により成り立っている。
(2)構成★★★
一般的な小説と違い、多数の登場人物の回想により時間軸が自在に行き来する。リアリズム小説の破壊が目的だということは知っていたが、解説を読むと、よりその重要性がわかった。
(3)論理★★☆
長大で複雑に入り組んだ小説だが、特に疑問に思う点はなかった。
(4)テーマ★★☆
小説全体で従来の小説の破壊を目論んでおり、内容としてのテーマを抽出するのは矛盾しているかもしれないが、捜査がまったく徒労に終わる姿に「個人の無力さ」が描かれているように思える。解説を読むと、それも実存主義から構造主義の変遷に合わせられていたのだとわかる。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
ミステリー小説としての面白さでは、もっといいものがたくさんあるだろう。ただ、従来のやり方を徹底的に破壊した上で再構築に成功したことは比類のないことで、今まで読んだ作品にはない感銘を受けた。