純文学1000本ノック 122/1000 吉村萬壱『ハリガネムシ』
こんにちは。
今回は2003年に芥川賞を受賞した吉村萬壱の『ハリガネムシ』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公の慎一は2年目で副担任として高校の教師を務めているが、性と暴力に惹きつけられるエネルギーを持て余し、若者たちがセックスしていた工事現場を覗きにいったりする。あるとき、半年ほど前に遊んだ風俗嬢のサチコから連絡があり、五万円貸す。それから、サチコとセックスをしたり、彼女の子供たちに会いに四国まで旅行に行ったりして不意に結婚の約束をするが、自分の親に会い、その約束を反故にする。サチコは自殺未遂して回復するが、慎一は残虐な気持ちになり、工事現場でサディストなプレイを試みるが、途中若者たちが入ってきて、その中に自分の生徒がいる。慎一は全部終わってしまったと思いながら、サチコが自分を殺しにやってきてもされるがままにする。
2.作品解剖
(1)文体★★★
私という一人称で、短文が多く勢いのある文体。サチコの独特な言葉遣いや行動の細部も味わいを増している。
(2)構成★★☆
シーンに力を注ぎ、間の部分は回想などでうまく処理されている。残虐な行為を行いたいと想う慎一が最終的に説教をしていた生徒の一団にいたぶられるのは綺麗な構成である。
(3)論理★★☆
とくに疑問に思う点はなかった。
(4)テーマ★★☆
身のうちから湧き出てくる主人公の暴力性や残忍性をハリガネムシというモチーフに表して表現している。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
夜の世界の住人である、サチコに魅力を感じる一方、見下している主人公。サチコの造形が見事であり、その存在の前には主人公の欲求は小さなものにすら見えてくる。