純文学1000本ノック 121/1000 保坂和志『この人の閾』
こんにちは。
今回は1995年に芥川賞を受賞した保坂和志の『この人の閾』です。
1.ざっくりあらすじ
主人公の三沢は37歳の男で仕事の関係で小田原に来たが、相手にすっぽかされて、近くに住む、大学の一つ上の女の先輩である主婦となった真紀を思い出して電話する。彼女は、おいでよ、と言い、三沢は彼女の家に行く。二人はそこでビールを飲んで話し、草むしりをする。真紀の息子の洋平が帰ってきて三沢はサッカーの話をする。洋平がサッカーをしに行き、再び二人になってビールを飲みながら話をする。真紀は本をよく読むが、特別それを何かに活かすわけでなく読むために読んでいる。娘が帰ってきたところで三沢は帰る。後日、三沢は今は何もない平城京の跡地を見て、真紀を思いだす。
2.作品解剖
(1)文体★★★
ぼく、という一人称で、やや読者に向けて説明的な姿勢の文体。セリフもふんだんで軽やかな文体だが、三沢の独特な考察を随所にいれており味わいがある。洋平の動きや草むしりの場面は描写もうまい。
(2)構成★★☆
大がかりな展開はなく、仕事の空き時間の男と数年ぶりに会う一つ年上の主婦という状況だけが設定されており、一見すると作者の意図が介入していないように見える作品。最後の平城京だけ意図的な感じで二人の話を象徴的に表している。
(3)論理★★☆
とくに疑問に思う点はなかった。
(4)テーマ★★☆
存在について、仕事や主婦生活など実質的な部分から、イルカの知能など寓話的なものを含めて探っている作品だと思った。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
軽やかな一方、しっかりと味わいと深みのある文体で、大きなテーマについて身近な部分から掘り下げているように思った。安易に展開に頼らず、文体で魅せていくという意味で非常に純文学的な小説だとも思う。昼下がりに男女が二人で会うことに、一定の期待感を持ちつつも、何もなくとも心地よく読める小説だった。