純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 116/1000 宇佐見りん『推し、燃ゆ』

 

こんにちは。

今回は2021年に芥川賞を受賞した宇佐見りんの『推し、燃ゆ』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公のあかりは女子高生で、推していたアイドルの上野真幸がファンの女性を殴ったとして炎上する。それからあかりは今まで以上に推しのために活動するが、自身の発達障害?に起因する問題と推しのことで精神的に追い詰められ、学校を退学になる。バイトもクビになり、亡くなった祖母の家に一人で住むようになるが掃除もままならず、推しの解散ライブに行く。感情の整理がつかぬまま、特定された推しのマンションに向かってみたものの、何もせず家に帰り、発散として綿棒をぶちまけるが、それを這いつくばって拾う。それが自分の今後の姿勢だと思う。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

一人称形式。やや説明過多な部分も見受けられる(推しがモチーフのためある程度は致し方ない)が、Twitterのつぶやきや、ブログ記事など、現代的な物を存分に取り入れつつ、要所での描写は丁寧にされ、頻繁に見られる物事への考察はオリジナルでありながら、読み手に実感として伝わるように言語化されている。

(2)構成★★☆

推し、が中心に来るかと思いきや、活動のきっかけとなった自身の深い生きづらさや家庭環境が深掘りされている。全体の構成としてはやや目移りする部分もあり、細かなところでは時制がわかりにくい部分もあるが、それを気にさせないほどの筆力がある。名前のあるキャラクター数については多すぎると思った。

(3)論理★★☆

とくに引っかかるところはなかった。

(4)テーマ★★★

現代的な「推し」というモチーフの背景に「どのように生きるか」という普遍的なテーマへの問いかけがなされていた。作品全体で安易に「推し」だけの話にならず、そこを深掘りされていた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

読むまでは口コミなどにより、現代的な「推し」をめぐる軽い話だとたかを括っていたが、読み始めてすぐに地力の確かな作家の作品だと思った。剛腕というのが似合う筆力で、普遍的なテーマを現代的なモチーフに絡めて消化していた。