純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 91/1000 奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』

どうも、こんにちは。

 

今回は文学界新人賞を受賞した『逃げ水は街の血潮』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公の工藤朝子は顔のかわいさによって地下アイドルになり、若くて将来有望な社会学者とも付き合っている。二十六歳で若さとかわいさの価値の下落を感じ、昔からあった男性社会への嫌悪感もあいまり、新宿の業界人がつどうバーを襲撃、放火し、そこにいた同じアイドルグループの星島ミグをつれて、温泉街に逃げる。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

一人称で、主人公の独白的な意識をおもに、短く、歯切れよく描いていく。冒険した文体だと思う。表現でおもしろい箇所は多いが、全体的には現代的な俗語の強さに頼っているようにも感じられる。

(2)構成★★☆

時系列にそっている。主人公の意識をおもにしているので、回想へのはいりの負荷もすくなくうまい。しかし、作品の終わりで全部が回収不能のまま投げ出された感はある。

(3)論理★★☆

リアリティとしては無理のありそうなものも主人公の意識と適度にはいる感覚表現でものにしているように思える。

(4)テーマ★☆☆

「男性社会への嫌悪と女性社会への不順応」が題材的に使われているが、テーマとしての深掘りはしきれていない感じがする。現代のSNSや地下アイドルなどを描いた風俗描写はエンターテインメント作品の方面で多くみられそうなので、その部分を作者なりにどう深掘りするのかが欲しかったように思う。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

歯切れのいい文体と現代風俗の切り取りで、独特のエネルギーに満ちた作品にすることに成功している。今作ではあっちこっちに飛び火した炎のきれはしを作者なりに今後どう一つの作品に落としこんでいくのか楽しみに思う。