純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 107/1000 上村亮平『みずうみのほうへ』

どうも、こんにちは。

 

今回はすばる文学賞を受賞した上村亮平の『みずうみのほうへ』です。

 

1.ざっくりあらすじ

アメリカあたりの外国が舞台になっている。主人公は、子どものころ父とフェリーで旅にでたときに父がいなくなった。その後、伯父に引き取られ、アイスホッケーが盛んな田舎町で過ごす。そこで唯一仲の良かった女の子は死んでしまった。いまは一人で港町にでて魚肉の廃棄作業の仕事をしている。あるとき、死んだ父とのゲームのなかで想像したサイモンと現実で出会い、彼と過ごすようになる。そして、サイモンが父をフェリーで誤って海に落としたことを知る。主人公はその前から昔の女の子に似た女性と出会っていて、湖のある田舎町に帰り、伯父とその女性とペンションの経営をする。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

一人称で、「ぼく」という主人公の目線のもと語られていく。今まで読んだすばる文学賞の作品と比較すると細部が練りこまれており、クオリティが高い。比喩がおおく、アメリカ文学村上春樹の影響を大きく受けたような文体である。

(2)構成★★☆

時間軸は自由に、唐突に行き来するので、読者にはやや不親切な印象。物語が重層的で、幾重にも登場人物たちが重ねられていて、おもしろい仕組みだった。

(3)論理★★☆

サイモンの存在や女性の存在、夢のシーンなど大きな飛躍となっていて、物語に幻想性を与えている。細かい部分では全体が丁寧に描かれており、とくに不明な点はなかった。

(4)テーマ★★☆

物語が主軸としてでているので、テーマとは反対の部分を求めている気がする。成長物語としての側面はある。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

村上春樹と同じように読後の奇妙なふわふわ感と読み心地のよさが余韻として残る。それは幻想性と文体や物語の力であると思う。時間軸とつなぎの不明瞭さ(意識的だと思うが)を修正すれば、より多くの読者の支持を得られると思う。