純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 90/1000 吉行淳之介『夕暮れまで』

どうも、こんにちは。

 

今回は吉行淳之介の後期代表作『夕暮れまで』。設定は中年男性と二十代前半の女性のカップルということもあり、社会現象を起こした作品です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公の佐々は四十過ぎで既婚者だが、二十三歳の杉子と愛人のような関係を持っている。ただ、杉子は処女でいることで将来の結婚を守ろうと、性交は行わずオリーブオイルを太ももに塗って佐々のペニスを挟む。二人は一年以上その状態を続けているが、杉子はヤクザな若い男を追いかけるようになっていく。その男と一線を越えた杉子は佐々にも身体を許し、若い男にも逃げられてしまうが、佐々は重みを増した関係から逃げようとする。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

三人称で佐々の視点が主となって話が進む。短く描写とセリフが中心の文体。相変わらず鋭く人間の内面を描くが、初期ほど詳細に書かず、描写によって表現されるようになっている。

(2)構成★★☆

回想を交えながら時系列に沿って進んでいく。初めと終わりは佐々の感じるにおいで繋がっている。

(3)論理★★★

特に不明点はない。作者の人間観察から生まれた杉子のリアルな造形が作品に生命を与えている。

(4)テーマ★★☆

テーマというテーマはないように思える。あえてあげるのであれば、不倫関係の付き合いにおける男女間の感情だろうか。初期から中期に見られた性による肉体と精神のつながりの探求も減り、単純な肉体における意味が増している気がする。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

中年男性と若い女性による不倫関係という題材は当時センセーショナルだったのだろうが、作品としての探求力は初期や中期の方に軍配が上がりそうである。描写力は研ぎ澄まされている。