純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 77/1000 中上健次『岬』

どうも、こんにちは。

 

今回は中上健次の『岬』です。作者は本作で芥川賞を受賞しました。続編として『枯木灘』、『地の果て 至上の時』があります。

 

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1.ざっくりあらすじ

二十四歳の秋幸は、義兄の組の土方として働いている。紀州の田舎で秋幸を取り巻くのは、種違いの兄妹や腹違いの兄妹との複雑な血縁関係である。秋幸はそれを無視しようとしている。しかし、身内での刺殺事件が起こり、秋幸の周りの関係は崩れ始める。秋幸は嫌っている荒くれ者な実父の血を感じながら、売春宿ではたらく腹違いの妹と交わる。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

‟母は、どなった。”という風に読点を多用し、短文で区切った文章を重ねていく文体。三人称秋幸視点を用い、主人公の秋幸を「彼」と表記する。『枯木灘』で見られるような繰り返し同じ描写をすることによる印象付けは出来あがっていないが、秋幸の精神性に即した文体を創り出していると言えるだろう。

(2)構成★★☆

現在を軸に要所要所で秋幸による過去の回想が入る。回想の頻度や長さも適度で読みやすい構成になっている。最後の章では性交後をはじめに描くことで、驚きとともにフックを効かせた後世になっている。

(3)論理★★☆

論理的に不明な点は特にない。

(4)テーマ★★★

親への「憎しみ」や「怒り」、「解放」あるいは「反逆」などが、甘えの許されない環境で生きてきた主人公の抑圧された心のなかに表されていた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

はじめに『枯木灘』を読んでしまったせいか、そこまでの感情のゆさぶりは受けなかった。しかし、他とは違い徹底して田舎の下層社会をリアルに見つめた今作は、それだけでも非常に大きな文学的価値のある作品だろう。