純文学1000本ノック 104/1000 黒名ひろみ『温泉妖精』
どうも、こんにちは。
今回はすばる文学賞を受賞した黒名ひろみの『温泉妖精』です。
1.ざっくりあらすじ
幼少期から自分の容姿にコンプレックスをかかえていた主人公の絵里は、整形をくりかえしヨーロッパ人のフリをして地方の温泉宿に泊まることを趣味としていた。毒舌温泉ブロガーのゲルググが何度も訪れている温泉にきたが、期待外れだった。そこに泊まっていた口の悪い中年男の影と会う。絵里は影がゲルググだと気づくが偏屈な性格に幻滅する。しかし、ふたりは次第に近づき、絵里の提案で一緒に露天風呂で朝日をみる。
2.作品解剖
(1)文体★★☆
三人称的一人称で、回想がちりばめられている。場面の切り替わりや出来事の起こりに、突発性があり、それがこの小説に独特のリズムと面白味を与えている。
(2)構成★★☆
幼少期→温泉へ→影との出会い→ラストという構成。回想はあいまあいまで敷き詰められている。流れとしては平凡だが、上記の切り替わりの面白さで、小説としての面白さが格段に増している。
(3)論理★★☆
突拍子もない出来事がおおいが、きちんと一応の説明と理屈が描かれているので、そんなものかなあ、と思わされてしまう。
(4)テーマ★★☆
どうにもうまくいかない自分像を、男性版自分として影に見立てている主人公。影には投影という意味での名前もあったのかもしれない。しかし、テーマとしてなにかを具体化するというより、におい立たせて終わりを迎えるという形式であり、そこには純文学らしさを感じた。
3.総合評価と感想
総合★★★☆☆
小説のつくり方として、ひとつ新しいものを見たような気がして面白かった。現代的事象や事物を無批判に入れ込む姿勢は個人的に好きではないが、今作では作者独特のユーモアをもってきれいに料理されているような気がした。