純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 103/1000 足立陽『島と人類』

どうも、こんにちは。

 

今回はすばる文学賞を受賞した足立陽の『島と人類』です。

 

1.ざっくりあらすじ

常日頃から身につけたものを脱ぎ捨て裸になることを志向するヌーディストの未來夫は、大学教授として授業で裸になり停職に追い込まれる。マンションの一室に集まってくるヌーディストたちと張り込んでいた記者の男をつれ、妻とボノボが待つ島へ向かう。島で妻は人とボノボによる新しい生命を誕生させようとしていて、ペニスがボノボに似ているという理由で記者がその生殖に利用される。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

三人称で、未來夫と記者のふたつの視点にわかれて描かれ、書き手の視点はあまり出てこない。インテリのもったいぶった言い回しもおもしろく、湿度のある単語選びが作品全体に淫靡な雰囲気を与えている。

(2)構成★★☆

事件→騒動後の生活→旅とその目的→クライマックスという流れ。中盤以降、ひんぱんに出てくる週刊誌の記事風(大学教授の未來夫が記者の代筆をしている)の部分も作品にうまく奥行きを与えている。一方、とくに最後あたりの記事において未來夫はここまで自分と他者を客観視できているのだろうかという疑問は残る。

(3)論理★★☆

おもしろい飛躍の仕方をしていて、小さな部分で気になるところはすくない。上記した記事においての疑問はすこし引っかかった。

(4)テーマ★★☆

現代社会における諸問題を裸になることによって解消する、というところから、新人類を誕生させて解決するというところまで進んでゆく。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

個人的にはおもしろく評価の高い作品だった。アカデミズムに喧嘩を売るような姿勢や表現として週刊誌の記事をつらねるという種々の試みもよかった。全体として描写ではなく説明に偏りがあり、題材となる要素も多いため目移りしてしまう部分はあった。