純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 92/1000 田村広済『レンファント』

どうも、こんにちは。

 

今回は文学界新人賞を受賞した『レンファント』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公の弘明は、子どもが生まれたとき、植田という中学時代の同級生に殴られて右目を怪我したことを思い出していた。弘明は子どものへその緒を切るときまで、そのことを考えていた。それから弘明は育休をとり、主夫的な生活をはじめた。子どもの翔太は病院に通っても日増しに湿疹がふえた。弘明は最後にたどりついた病院で、女医からステロイドを断つことをすすめられた。それと同時にレンファントという一番強力なステロイドももらった。弘明は悩みながらもステロイドを断つことにするが、仕事とうまくいかない子供への失望で疲れた妻に冷たくされる生活がつづいた。祭りの夜に、飛び込んで三回願いを唱えると叶うという橋から中学時代の同級生の植田を突き落として、死ね死ね死ねと叫んだ。弘明は家に帰ってから翔太に右目の怪我のあとを引っ掻かれ、右目が見えなくなった。

 

2.作品解剖

(1)文体★★☆

三人称的一人称で、主人公の感情をうまく伝えている。非常に手慣れていてうまい印象だが、逆に書きすぎて読者の想像の余地を狭めているようにも思える。

(2)構成★★☆

時系列にそっている。回想の入りがうまく、場面転換の単調さも感じさせない。モチーフは詰めこみすぎている印象があり、最終的にうまく機能しきらなかったように思う。

(3)論理★★☆

人物造形は面白味とリアリティの両立に成功している。描写の生々しさや巧みさもあり、全体が一定の論理性を保って進んでいる。

(4)テーマ★★☆

「父親としての資格と一人間としてのエゴ」という部分が一番注目されているように思えるが、全体的に要素が多いので主軸としてのテーマをどこに据えていたのかがあいまいになってしまっている印象はある。

 

3.総合評価と感想

総合★★★☆☆

読みはじめてすぐに文章レベルの高い作者だという風に思った。『レンファント』というタイトルへのつなぎや、生々しく分量の多い描写をしつつもわかりやすい心情説明、回想や場面転換など文と文のあいだのつなぎなど巧みに感じられる部分が多かった。しかし、個人的には読んでいて心にせまってくる部分がいま一つ感じられなかった。目移りしてしまう要素の多さ、主人公のやや単調な心情説明、あたりが原因かと思われる。