純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 118/1000 川上未映子『乳と卵』

こんにちは。

今回は2008年に芥川賞を受賞した川上未映子の『乳と卵』です。

 

1.ざっくりあらすじ

主人公は東京に住んでおり、そこに大阪に住む姉の巻子と姪の緑子が遊びに来る。巻子は離婚し場末のスナックで働くシングルマザーで、豊胸しようとしておりそのカウンセリングなどもあり東京に来ている。緑子は巻子と喧嘩しないように半年間言葉を発していない。三人は主人公のアパートで過ごすが、巻子がなかなか戻らない夜、緑子がひどく心配し、ようやく帰ってきた巻子が酔っ払って、離婚した旦那と会ったことを話き、喋らない緑子のことを非難する。緑子は感情を溢れさせて巻子と言い合う。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

主に独身の女性である主人公の一人称形式で、関西弁で主人公の思考や考察を随所に混ぜながら読点を多用し、長い一文を作っている。身体感覚の優れた描写と流れるようなリズムがあり、読み心地がよい。主人公の姪の緑子による一人称で悩みがつづられた日記的な文が間に挟まれている。

(2)構成★★☆

現在軸の主人公と、少し前からの緑子のノートが絡みあい、ラストの親子喧嘩の際には、展開とあいまって心をゆさぶるようになっている。緑子の成長がきちんと描かれている。

(3)論理★★☆

特に引っかかった点はなかった。

(4)テーマ★★☆

「女性の性」を成長を緑子の成長を通じて描いているように思った。40手前で女性の性にしがみつこうとする巻子、そのいくつか歳下で淡い妊娠への希望と現実的な性との距離感を保つ主人公、初潮を前に性への嫌悪感を募らせている緑子という三つの立場がうまく表現されて、描かれている。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

関西弁を駆使した文体の力を存分に発揮しながら、女性の性に対する考察を深く抉り出している。