純文学1000本ノック

ただひたすらに純文学の読書感想を並べていきます。

純文学1000本ノック 89/1000 多和田葉子『かかとを失くして』

どうも、こんにちは。

 

今回はドイツ在住作家の多和田葉子のデビュー作『かかとを失くして』です。

 

1.ざっくりあらすじ

書類結婚によって海外に一人で来た主人公は、部屋にこもり姿を見せようとしない夫と生活を始める。主人公は町の生活事情を知るために学校へ行く。夢の中で夫と会うがその動きや話は町の人たちによってつくられていく。毎朝起きるとお札が部屋に置いてある。主人公が出会う女たちの多くは書類結婚という境遇を否定的に見ている。五日目の日、主人公は錠前屋に行って夫の部屋の鍵を開けてもらう。ベッドの上には死んだイカがいた。

 

2.作品解剖

(1)文体★★★

一人称で句点をあまり使わず、意識のままに進めていくような書き口。夢もふくめて主人公の空想が多々入って来て幻想的な雰囲気を醸し出している。

(2)構成★★☆

時系列に沿って進んでいく。

(3)論理★★☆

最後のイカの死骸によって一気に空想感は強まるが、それまでの不思議さがあるので変には感じない。

(4)テーマ★★☆

書類結婚や、社会階級性の問題に関する言及だったりが、かかとを失うというモチーフに絡みあい、ヨーロッパにおける人種問題などを浮かび上がらせているように思えた。

 

3.総合評価と感想

総合★★★★☆

読んでいて心地よいと思った。ミルクの香りがする甘い飴を舐めているみたいな読み心地である。主人公のいたずらっぽく空想好きな少女性と、異国の雰囲気がそうさせるのとだと思う。主人公の目線の素直なところも好感が持てた。その上で非現実的世界を多用し、そこに現実における象徴を交えていくという手法だと思った。その裏に作者が海外在住で得た経験と、豊富な知識があるのだろう。