純文学1000本ノック 75/1000 砂川文次『市街戦』
どうも、こんにちは。
今回は砂川文次の『市街戦』です。作者は本作で文学界新人賞を受賞しデビューしています。
1.ざっくりあらすじ
大学卒業後、自衛隊に入ったKは幹部候補生としての最後の総合訓練を受けていた。総合訓練では100kmにおよぶ行程を歩かなくてはいけなかった。そのなかでKは、大学卒業間際の進路決めを主に、過去のさまざまなことをうつつの中にも思い出した。Kは訓練の終盤に差し掛かると、過去から決別していく。
2.作品解剖
(1)文体★★★
実際に自衛隊員だった作者によるリアルで密度のある訓練描写だった。そのあいまに夢とも現実ともつかない思い出が見えてくるが、描き方も非常にうまかった。
(2)構成★★☆
総合訓練の二日間を軸として、過去の回想によって、モラトリアムから抜け出す主人公の姿が描かれている。シンプルでわかりやすいが、訓練中に過去の思い出の風景もあらわれるという味のある構成。
(3)論理★★☆
リアルさもあり、特に不明な点はない。
(4)テーマ★★☆
一言でいうと、成長という感じである。モラトリアム時期に日々の充実感のなさや恋愛や家族関係などさまざまなことでゆれていた主人公が、自衛隊に入隊したことで、そこから抜け出し、今あるものと向き合っていく姿が描かれている。
3.総合評価と感想
総合★★★★☆
おそらく実体験に基づいていることなのでリアルで、そこに思い出を混ぜ込んだ文体のレベルが高かった。テーマについては、ありがちだが、自衛隊というモチーフによってよい作品になっていると思う。ただ、伏線のようにあったMとの関係や終盤の主人公の心情などやや雑に感じる部分があった。